第4話 そういう経験
――リリノが連れてこられたのは、セシルが借りているという宿の一室だった。
普段、リリノが使うような宿とは違い、どこか高級感が漂っている。
「とりあえずシャワーでも浴びようか」
「!? シャワーがあるんですか……!?」
セシルの言葉に、思わずリリノは驚いた。
――基本的に、安い宿であれば個室に風呂場が付いていることはない。
湯を沸かすといったことに使われるのは魔石であり、そうした技術には当然――金がかかる。
導入している時点で、ここの宿はリリノが利用しているような宿とは一線を画しているのだ。
実際、この辺りはあまりリリノがやってくることはない。
貴族街とも呼ばれており、高級店が並び立つような場所だったからだ。
セシルは『Sランク』の冒険者――それだけの稼ぎがあるのだろう。
リリノの借金を肩代わりしてもなお、生活に余裕があるというわけだ。
リリノは促されるがままに脱衣所へと足を運ぶと、そこにはセシルも一緒に入ってくる。
「……?」
「どうかした?」
「あ、いえ、なんでもない、です」
リリノは一緒にシャワーを浴びるのだとすぐに理解した。
――先ほど、セシルが言っていたことを思い出す。
『えっちなこと』をしようと思う――女性のセシルからそんな言葉が出てくるとは想像もしなかった。
先日助けてくれたかっこいい女性は、借金まで肩代わりしてくれて――それで、何もないというのはさすがに虫が良すぎる話なわけで。
むしろ、彼女に抱かれて済むのならずっといいのではないだろうか。
あるいは――奴隷として売られて、知らない誰かに買われることになるよりは、助けてくれた女性に抱かれた方がよっぽどいい、そうリリノは考えていた。
お互いに服を脱いで脱衣所に入ると――風呂場もそれなりの広さがあった。
もちろん、二人だと少し狭く感じるが、しっかりとお湯を出すことにできる設備が整っている。
そのまま、風呂場にあった椅子に腰かけると、その後ろにセシルが座る。
「背中を流してあげよう」
そう言われて、リリノはこくりと小さく頷いた。
――正直、緊張する。
結局、流れのままにこうなってしまったわけだが――これから、リリノはセシルに抱かれることになるのだ。
そもそも、そういう経験もなければ――想像したこともない。
ましてや、女性同士で関係を持つことになるとは、考えもしなかった。
「あ、あの……」
「ん、何かな?」
「セシルさんは、その……女性の方が好き、なんですか?」
「どうだろうね。好きになるのは確かに女性ではあるけれど、誰でもいいというわけではない。どちらかと言えば、私にとっては必要なことだからね」
「……必要なこと?」
「説明するより、実践した方が分かるかもしれないね」
「え――んっ!?」
リリノを抱き寄せると、セシルはそのまま――口づけをかわした。
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