9話 二人の出発地点
都内某喫茶店、そこで俺はコーヒーとスイーツを楽しみながら、ある男と会話していた。
「だからさ、これからはAIに奪われない仕事に就くかが大事なんだよ」
「あそう」
いやー美味しいな、コーヒーの苦みを甘いスイーツで調和させる……。
「少なくとも俺とお前にできるような仕事は、AIどころか誰にでもできそうだけどな」
「うっぉい!!だれが佐竹博夢だ!」
「やめろ、人をダメ人間の代名詞にするな」
目の前で大声を上げた男、細谷祐樹は俺と同じ通信制高校に通う友達だ、うちの高校は1か月に一回スクーリングがあるのだが、入学式後すぐのスクーリングで声をかけてきたんだ。
お前は素材がいいとか、俺の練習台になれとかうんたら、祐樹は美容師を目指しているらしく、何かと俺におしゃれな服を着せたりする、俺は着せ替え人形じゃないのに……。
「つーかお前彼女いたことないの?」
「ない、俺が不登校の引きこもりネットゲーマだったの知ってるだろ?」
「うん」
うん、じゃねーよ、なんか腹立つ。
「自分で言い出したのに睨むな!でもイケメン」
「うるせ」
そう、こいつは何かと俺の顔を褒める、正直自信はないが……祐樹に髪をセットしてもらったり服を選んでもらったり(ブランドもの高い怖い)、まぁ鏡で見た時、悪くないって思った。
「つーかお前春休み前のレポートはしっかりやったか?」
祐樹がスマホを見ながらそんなことを言い出す、今は3月中旬、俺が亥紗羅から帰ってきて半年を過ぎた。
「あぁ、やった、終わった」
「ひゅ~、さっすが真面目ちゃん」
コーヒーぶっかけようかな?やめとこう、お金がもったいない。
「ヒロは春休みどっか行くのか?」
「あぁ」
俺は窓を、空を、遠くを見つめる。
「どこ?」
川の音が聞こえる、幻聴だけど……朱音の笑顔は今も焼き付いてる、あれからもあれ以上の笑顔知らない、正直俺は朱音のことを考えない日はないくらい、好きなのかもしれない。
「亥紗羅」
「まじかよ…………どこ?」
「田舎だよ」
祐樹は「えーつまんね~」という、そうだよ祐樹、つまらないよ……パソコンを持っていくわけにもいかないし、ここみたいにおしゃれな喫茶店も、カラオケもボーリングもない。
でも、そこにいる人とかかわるだけで、ここよりいい場所に感じれるんだ。
「何しに行くんだよ?」
俺はコーヒーのカップをテーブルに置く、スプーンをもってその先端を祐樹に向けて言う。
「主人公になってくる」
***
電車の窓から見える景色は退屈だ、代り映えのしない田舎の景色。
あの日とは違い、ちらほら桜が見える。
電車は相変わらずガラガラ、3駅前は結構いたのにな、近づくたびになんか緊張する、心臓の鼓動が速くなる。
「次は、亥紗羅~亥紗羅~」
窓ガラスを鏡にして、変なところがないか確認する、そしてキャリーケースの取手を持つ。
電車のブレーキ音が響く、停止と同時に立ち上がるとドアが開く、電車から出ると暖かい風が肌をくすぐる。
「帰ってきた……」
……始めよう、終点から。
俺が主人公の物語を。
***
川を眺める、この川は春になると周りの木に咲く桜のおかげで、桜の花びらが流れる川になる、夜空の天の川を写したような、とても幻想的な姿になる。
水面に映る自分の姿を見る、少し前まで嫌いだった容姿、でも他人を好きになると自分も変わるもので、メイクしたり、流行りの服を買ってみたり、学校の友達とかから色々教えてもらった。
この場所は一番好きだ、博夢と出会った場所だから、何かあった日も、なかった日もここに来る。
休みの日は美波ちゃん達と遊んだりする、私みんなと楽しく遊べるようになった、前は自分から離れてたけど、今は逆になった。
春休みに入ってすぐに博夢のお父さんから、博夢が遊びに来るって聞いた、今日がその日。
「きっとここに来るよね」
博夢にとっても好きな場所だったら嬉しい。
母親とは仲直り、と言うより和解はした、最近は会話も増えている、お父さんも嬉しそうだった。
勉強は苦手だけど、美波ちゃんや吉明くん、恵利ちゃんにも教えてもらってる。
大変だけど、目標があると頑張れる、ほら……来てくれた。
「博夢……」
前よりも少し大人っぽくなった気がする、髪も短くなって、着ている服もおしゃれで、爽やかになったイメージだ。
「久しぶり、朱音」
名前を呼ばれるだけで、心臓が大きく跳ねる、あぁやっぱ好きだな。
「お互い、変われたね」
「だな、でもここから始まりだ」
そうだ、ここから、人生は長いんだから。
私はもう決めてるよ、君と一緒にいること、一生を添い遂げる覚悟だってある。
「会いたかった……たった数日の関係なのに、ここまで好きになるの、おかしいかな?」
そう問いながら私は身を寄せる、博夢の体はおっきくて、温かい。
「おかしくないよ、俺も……好きだし、会いたかった」
ぎゅっと優しく包み込まれる、今はただずっとこうしていたい、お互いに頑張ったねって言い合うように。
しばらくして、桜の花びらが流れる川を一緒に見つめた、散った桜もこれからどこかへと流れる、私たちと同じように。
終点を目指して。
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