8話 変化
朱音の気持ちは表情を見るだけで伝わってくる、俺は本当にこの子のヒーローになれたのか、自分じゃ実感が湧かない。
それは多分自分に自信がないから、その自信をつけるためには変わらなきゃいけないんだ、自分自身が、胸張って俺は佐竹博夢だって思えるように。
「朱音、俺は自分が朱音のヒーローとは思ってない、そう思うのは自分自身の問題なんだ」
だからそのためにできること。
「俺は学校に行く、自分のなりたかった人間になれるように、自分に自信を持てるように」
「博夢……それはっ!」
「明日、東京に帰る、親父と母さんには怒られるかもだけど……そこからがスタートなんだ」
そうだ、まだ始まってすらいない、ずっと長い長い電車に乗っていたような、窓から延々と同じ景色を眺める毎日、でもようやく見えてきたんだ、終点が。
「ここを逃したら、俺は2度と変われない、ちゃんとした人間になって、また帰ってくるよ」
そしてそこから始まるんだ、俺が主人公の物語が……終点から。
「いっちゃうの……?」
「いくよ、でもさよならじゃない、辿り着く場所一緒だ」
朱音は涙を袖で拭って「わかった」と小さい声で言う。
「私も変わる、博夢と一緒だから、一緒がいいから……私、めんどくさい女の子だ」
「可愛いと思う」
朱音はその言葉で頬を赤くする、そしてまた泣いた、胸に顔を埋めにきた彼女の頭をそっと撫でる。
俺はこの亥紗羅で1人の少女と出会った、俺のことをヒーローと言ってくれて、俺のヒーローになってくれた、変わる決意をさせてくれた。
次会う時はちゃんと伝えられるはず、朱音のことが好きだって、俺のヒーローになってくれてありがとうって。
***
親父が帰ってきて、俺はすぐに頭を下げた。
ここまできて帰ることになってしまったこと、今まで心配かけたこと、迷惑かけたこと。
「……昔、お前の読んでた本を思い出した」
親父は急にそんなことを言い出した、天井を見つめて、目を瞑って。
「お前の言う朱音ちゃん、似てる気がするよ」
そういえばあの本は親父がくれたものだったか、俺も同じように朱音とあの本の主人公を重ねてる。
「学校行くんだろ?」
「行くよ、今度は困ってる人間を見捨てないそんな人間になるために」
そうして初めて俺はヒーローになれるんだ、幼ころから憧れたあの子のように。
***
亥紗羅から東京に帰り、通信制の高校に通い始めた、大学へ進学するつもりではある、基礎すらままなっていない今の状態、まずはそれをなんとかしようと思い、中学の内容を家で勉強する毎日だ。
東京の夜は明るい、遅い時間でも賑やかな場所、亥紗羅の静かさが欲しくなる時もある。
朱音とは連絡をとっていない、でも親父のとこにたまに行って家事してるらしい、なんだか申し訳ない。
親父は朱音のことをえらく気に入って、俺の娘同然とかなんとか、あれで頭いいから勉強も教えてるらしい。
変わりつつある、俺も朱音も、だから次会う時はきっとお互い無くしてた……自信ってものを取り戻してるはずだ。
「あっ!ボールのお兄ちゃん!」
昼飯を買いに出掛けていると、1人の男の子が声をかけてきた、隣には母親らしき人物。
「この前はありがとうございました」
「いえいえ」
一昨日あたり、俺は迷子だった男の子を見つけた、幸い持ち歩いてたカバンに連絡先が書いてあったので、母親に電話してことなきを得たのだ。
ボール呼ばわりされている理由は、母親が来るまで一緒にサッカーをしてたからだ。
「ばいばーい」
母親と手を繋ぎながら、もう片方の手を振る、俺も同じように片手で振り返す。
「さてと……」
気分がいい、今日はいつもより頑張れそうだ。
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