7話 朱音と一緒に
朝、テレビを流しながら朝食を食べる、目の前に座っている親父は急いでるようで、味がちゃんとわかっているのかと心配になるほどだ。
「せっかちだな」
「あぁ、今日は急ぎの仕事があるんだよ」
親父のしてる仕事は道路整備、民間の建物とか公共施設の工事とかやってるらしい、見た目はガチガチでめっちゃ怖い、でもやってる仕事は設計関係らしくて、キャドとか言うものを使ってるとか。
家電は使いこなせないのにPCは使えるんだもんなー。
「ご馳走様、美味しかったわ」
味わってくれたなら何よりだけどさ。
***
平日の午前10時、家のチャイムが鳴る、モニターなんてないので直接確かめるしかない。
「やぁ!おはよう~」
透き通るような肌が透けるレースがついた洋服、下はデニムスカートってやつだと思う、多分……まさに夏って感じのかっこうでいらっしゃった、確かに9月中旬なのに今日は暑い。
「何しに来たの?」
「暇だから……ね」
わかる、俺も洗濯機回して、干して……これから何しようかなって思ってた、食材は親父が帰りに買ってくるから俺が買いに行く必要ないし、ネトゲもできないし。
「とりあえず、上がる?」
俺の家じゃないけど、女の子を家に入れるのってちょっとドキドキする、実家だったら絶対に入れられないな(アニメグッズたくさん)。
「お、おじゃましま~す」
朱音は靴を脱ぎ恐る恐るリビングに入る。
「誰もいないよ」
「そ、そっかぁ」
安心したようで、俺が座ると隣に座ってきた。
「何する?」
「わ、わかんない」
俺もわかんない、何すればいいの?イケてるファッションの話?映えるスイーツの話?どれも俺の専門外、女子高生って何が好きなの?
「ひ、博夢って……どうして不登校なの?」
それ聞くのか、まぁ知りたいって思われてるのは、興味があるってことだな。
「昔な、いじめられてたやつがいたんだ、幼馴染なんだけどさ」
朱音は相槌をするわけでもなく、うつむいて黙ったまま話を聞く、なんて言ったらいいのかわかんない、そんな感じだ
「俺はヒーローとか、誰かのために行動できる主人公に憧れてたんだ、でも……弱かったんだ、結局最後までその子を助けられなかった」
こぶしを握る、頭が痛い、めまいもする、まだ……自分を許せていないのかもしれない、だめだ、こんな話……朱音が困るだけだ、わかってるのに。
「今でも覚えている、下駄箱の隅で俺は動けないまま、その子が泣きながらいじめっ子からスケッチブックを返してと……お願いって叫ぶのを、ただ黙って……黙って!!」
喉にグッと力を入れてもあふれて止まらない自分を責める言葉、気づけば俺は涙を流していた、朱音がどんな顔をしているのかなんてわからない、でも多分失望しただろうな。
両手で頭を抱える、朱音が聞きたかったのは多分こんな話じゃない、ただ理由だけを言えばよかったのに、怒られたかったのか、同情されたかったのか……結局朱音に慰めてほしかったのか、そんなの都合がよすぎる。
「ごめんね」
「っ?」
「聞くべきじゃなかった、でも……聞いてよかった」
どうして、朱音はそんなことが言えるのか、俺みたいな弱虫にどうして……どうして、そんなにやさしく笑えるんだ。
「聞いて、よかった……?」
「うん、だって……ずっと抱えてたんでしょ?博夢、お友達少なそうだし、悩みとか誰かに簡単に言う人じゃないと思う」
刺さるなぁ、友達が少ないはその通りだし、悩みを簡単に話さないのもそうだ、じゃあなんで朱音には話したのか。
「ありがとう、話してくれて」
あぁそうか、やっぱり、そうだ。
俺はヒーローが好きだ、君みたいに、誰かにやさしくできる、どんなに弱い人にでもそうやって寄り添える、日坂朱音と昔読んだ小説の主人公を重ねてたんだ、俺はヒーローが好きで、憧れで……ヒーローが欲しかったんだ。
「私もヒーローに憧れてたの、でも君と同じで私も弱かった……」
朱音が俺の両頬を両手で包んだ、親指で涙を拭ってくれた、情けない顔を見られてる恥ずかしさで顔が熱い。
「私が君のヒーローになってあげる、どんなにダメな君でも、ちゃんと寄り添ってあげる」
言葉がでない、そんな都合のいいヒーローがいていいのか、甘えてもいいのか……。
「朱音、ごめん」
いいわけない……俺は朱音の両手をそっと触って頬から離す。
「俺は、何も返せない、甘えるわけにはいかない」
少なくとも今は、できない。
「もう、もらったよ……博夢から」
「え……?」
「初めて会った日、あの日の朝、お母さんに言われたの、私みたいな子は、周りにおいてかれて、一人ぼっちになるのよって……怖かった、私もそう思ってたから」
朱音が目をぎゅっとつむる、そのあとにすぐ俺のほうをみて。
「でも博夢が……一緒だねって言ってくれた、それだけなの、それだけなのにね、胸が温かくて、なんかいっぱいで、わかんないけど……泣いちゃって」
あの時の涙、あれはそういうことだったのか。
「それだけなのに、たった一言もらっただけなのに、好きになっちゃったよ……」
反則の笑顔でそう言う朱音、恋する少女の顔、でもそれ以上に。
「君は、私のヒーローだよ」
輝いた青空の瞳はまさに、ヒーローを見るような目だった。
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