第6話 不器用な私達

目的地である私達の昔ながらの思い出の地に着くと、青空が広がる芝生が一面に広がっていた。


風がそっと頬を撫でて、遠くで鳥のさえずりが聞こえる。


「こんなところ、懐かしいね」


私がそう言うと、朔也は少し照れくさそうに笑った。


「俺、琴葉のこういう顔、初めて見るかも」


そう言う朔也の顔は、耳は真っ赤になっていないが、見えるはずのない心が暖色のグラデーションになっているように思えた。


二人でゆっくり人工芝生に寝そべる。緊張するけど、不思議と安心できる。


いつもより心臓の鼓動が速いが、それをも感じさせないほど気持ちの良い自然の中で私達が上手く溶け込んでいる。


風の音がさやさやとしたり、鳥の鳴き声や交通の音が聞こえるも、なんとも静かな時間が流れる中、ふと手と手が触れそうになる。


「……」


私たちの目が合って、少しだけ顔が赤くなった。


でも、そのまま何も言わず、手の甲がそっとぶつかる。


自然と、手が繋がれていく。


「私たちって、不器用だよね」


私が笑いながら言うと、朔也もゆっくり笑った。


「……でも、その不器用さが、俺は好きだよ」


そう言って、彼は空を見上げたまま、小さく続けた。


「ていうか……今日の琴葉、すごく可愛い」


一瞬、心臓が跳ねる音がした。


顔を向けると、彼はまだ空を見たままだったけど、耳はほんの少し赤くなっている。


「……そんなこと言うなら、朔也だって。今日、かっこいいよ」


私も空を見たまま、そう返す。


でもなんとなく、彼もこっちを一瞬見た気がする。顔赤いの、バレたかな。


でもね、そういう雰囲気が、私達にとても似合っていると思う。


ふたりとも顔を見合わせないまま、ただ言葉だけを空に投げる。


でも、その言葉たちは、まるで風に乗って、お互いの胸にそっと降りてくるような、そんな感じがした。


まるで、世界に私たちだけがいるみたいな時間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不器用な君は。 @_harunohi_143

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ