第3話 名前のないこの感情
あの日のお昼休みの出来事以来、私は朔也を意識するようになってしまった気がする。
でも、なにをどう意識しているかは明確じゃない。
だって、朔也はいつものように振る舞ってくれているし、本当にただの幼馴染って感じ。なんだか、私だけがその”ただの”を壊している感じ。
でも――――――
朔也はあの日、なぜあんなにも耳を赤らめたのか。そしてなぜそれを見て、私の心臓は早くなったのか。
その謎がわからないまま、私は放課後、朔也のクラスに行く。
「朔也、いる?」
私がそうクラスメイトに話しかけると、いつものあの茶化してくる男子が、
「さ〜くや〜!彼女来たぞ〜!」と言っていた。
「ちょ、彼女なんかじゃ…!!」
いつものことなのに私は笑うことをせず、茶化しに本気で反論してしまった私自身にびっくりしてしまった。幸い、誰にも聞かれていなかったのだが、どんな顔をして朔也に会えばいいのかわからなくなってしまった。
いつもなら、朔也はこちらに来るのが早いのに、今日に限って遅く感じた。
「おまたせ。帰ろうか。」
少し経つと、朔也は私の目の前に来ていた。
なんでだろうか。この間も思ったが、こんなにも大きかったのだろうか…?
前までは朔也の方が身長が小さかったのに、今では私よりも少し高いぐらいだ。
なんだか、小学生からいきなり大学生になったみたいな風貌。
朔也の後ろ姿が、背中が、幼馴染ではなく、”男の子”を感じさせる。でも、置いていかれているようなそんな気持ちはない。むしろ、彼が私をリードしているかのような ―――いや、それは私の行き過ぎた勘違いかも。
私は、しばらく朔也の背中を見つめていると、朔也はなにかを察したかのように後ろを振り返る。
「どうしたの?どこか具合悪いの?」
私は、はっと我に返り、「う、ううん!大丈夫だよ!ごめんね!帰ろ!」と自分のこの名付かない気持ちに勢いよく蓋をするかのように吹っ切った。
今日の放課後もすごく暑くて、アイスを食べるにはもってこいの気温だった。だが、朔也は前に進むばかりで何も話さない。
どことなく、彼の歩く速度がいつもよりも速い。私は短い足で頑張って彼に追いつこうとするも、すぐに息が上がってしまう。ついに追いつけそうになくなった私は、「朔也、待って…!!」と叫ぶ。
朔也の足が止まり、体がこっちを向く。そして、なにかに驚いた顔をしながら、「ごめん!」とだけ言って、こっちに駆け寄る。
私はそんな朔也に、「そんなに早く家に帰りたいなら一人でさっさと帰ればいいじゃん」と、日頃からよくわからない朔也に対する気持ちを抱えている不満や不安が混合して強く当たってしまった。
言った直後に頭が冷えた私は、「いや、あのごめん。そういうことじゃなくて…」と言い訳しようとすると、「いや、大丈夫。別に急いでたわけじゃないんだけど…ね。」となにか言葉を濁したかのように言う。
私はもう何も言えなかった。朔也も朔也で何を考えているのかわからないし、私が持っているこの感情もなんなのかわからない。心臓の鼓動が速くなるだけで私の心もこれがなんなのか教えてくれない。
好きなの?それともまた違う感情なの?
ただ、朔也のことを考えると心がざわざわして胸が苦しくなる。
それだけは確かだ。
「ごめん。私、先に帰るね。」
なにもかもを曖昧にしてくる朔也を置いて、その場をあとにしてしまった。
私は道中、更に感情がぐちゃぐちゃになって、裏道を出て、誰もいないところで涙がボロボロと溢れた。今までの感情がこの涙になったような気分だ。
――――全部落ちて、消えていく。
いずれ、朔也も…?
そんなことは絶対に考えたくなかった。もう、私のこの感情、気持ちは只者ではない。なにかしらの意味を持っている。
「誰か…教えてよ…」
私のか細い声は空気となって溶け込んでいってしまった。
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