第2話 いつもと違う朔也

お昼休み。私はいつものように朔也のクラスに行って、一緒にお昼食べようと言う。


朔也の周りの男子は、「お、彼女のお誘い来てんぞ〜」と茶化してくるが、朔也は「うるせえな」と軽く笑った。

いつもと変わらないやり取りに私も慣れ、自然と笑みがこぼれていた。

ただ、私達は幼馴染でちょっと他よりも仲が良いってだけ。


しかし、そんないつものやり取りの中でも、今日は朔也はなにか違った。

服の襟元がしっかりしていて、髪型もいつもより整われている気がした。


―――でも、彼女と言われて嫌な気持ちがしないのはなぜなのだろうか。


少し心にモヤつきがありながらも、私達は冷房のついている飲食可能の自習室へと行く。この時間の自習室は、自習室の役割を全く果たしていない。食堂並みに騒がしい。だが、今日はこの自習室でさえも雰囲気が違った。


入ってもいいのかわからないほどに静かだった。扉は閉まっていなかったので、お互いで入っても良いという判断をして、ランチをとることにした。


中に入ると、少しひんやりしていた。いつもの賑やかな室内の感じとは全く違う。

少し不気味感を覚えながらも、隣の席にいつも通りに座って、お弁当を食べる。隣と言っても、自習室なので一つ一つの机は離れている。でも、見た目的には隣だ。だから、ぴったり隣同士というわけではない。


お弁当を机に置いたとき、朔也が、「なあ、琴葉」と私の名前を呼んだ。


「ん、なに?」


朔也は私の名前を呼んだのにも関わらず、目を中々合わせない。どことなく、彼の耳が少し赤いような気がした。


「あのさ、机くっつけて食べない?遠いの嫌だから…さ。どう?」


私は少し恥ずかしくなってしまった。だって、朔也の耳が赤いんだもの。

私だってそういう気持ちに自然になっちゃう。


「いいよ」


私はさも何もなかったかのように机をくっつけ始める。

ガタッと机と机がぶつかり合う音が、静まり返った自習室に響いた気がした。


私の心臓は今すごくドキドキしている。

朔也がいつも以上に近い。


横目で彼を見る。

落ち着いたような顔をしているように見えて、耳はやはりほんのり赤い。


――あれ、朔也ってこんなに大きかったっけ?

――ガッチリしてたっけ?


私の記憶の中の朔也と、目の前にいる朔也と、少しだけ重ならない。

そのことに胸がざわざわする。


私がそんな、少し”成長?”した朔也を横目でじっと見ていると、彼は何も言わないまま、それでも耳が――更に赤くなった気がした。


私はそれを見て、こっちまで恥ずかしくなってしまった。

心臓の音がうるさくて、隣の朔也にまで聞かれていないか心配になる。


今、朔也に顔を見られたら――

私、多分顔から火が出る。


まだわからないけれど、もし私のこの”なにか”が朔也と同じなのなら、彼も―――


そんなことを考えようものなら、目の前のお弁当のおかずが喉を通らない気がした。


箸を止めたまま、ふと朔也の横顔を見てしまう。


黙々と食べているように見えて、でも彼の耳は――やっぱり、少し赤いままだった。



――――ねえ、朔也。


もし、今の私の気持ちに名前があるとしたら、それって……なんなんだろう。

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