第16話 消えたら困るから

登場人物:聡美(視点)、悟、ひとみ


「……えっと、バックアップキット……」


聡美は画面に映った製品名をスマホで撮影した。忘れないように、あとで調べておこう。


「それと、スマホの写真も取り込みました?」


悟が続けて尋ねる。


「あ……いえ、まだそこまでは」


そういえば、そんな話もしてくれていた。製品の機能について一通り説明してくれたが、あまりにも機能が多すぎて、一度聞いただけでは覚えきれていない気がする。


「それがね、超便利なのよ!」


身を乗り出したひとみの勢いに、思わず聡美は驚いた。


「今って、デジカメ持ち歩くのってけっこう面倒でしょ?だから、もう何でもスマホで撮っちゃうの。育ててる花の写真とか、旅行に出かけた時とか、ごはんを食べに行くときも」


聡美も自然と頷いた。前に取り込んだデジカメ以降、カメラは買っていない。今やスマホがカメラになっている。


ひとみの話は続く。


「機種変するたびに、写真をどうしたらいいかわからなくて。結局、ずっと前のスマホを手元に残してたのよ」


「ずっと?」


「そう、ずっと。でもね、今は全部おもいでばこに入れたから、安心して処分できたのよ」


「もちろん、バックアップもしてるけどね」


そう言いながら、ひとみがテレビ台の下を指さすと、外付けのハードディスクがきちんと接続されていた。


(あ……あれがそうなんだ)


聡美の頭に、さっき悟が言っていた「バックアップ」の話が浮かんだ。


「写真って、ちゃんと集めておかないと、なかなか見返さないですよね」


悟の言葉に、聡美は頷いた。実際、SDカードの中から取り出した写真たちは、どれも何年も見返すことのなかったものばかりだった。


もしおもいでばこがなかったら、今もそのままになっていたかもしれない。


「こうやって写真を集めていくと、どんどん“消えたとき”のショックが大きくなるんですよ。だから、先にバックアップはしておかないと危ないんです」


なるほど、そういうことだったのか。


「私も、バックアップのHDD、ちゃんと買います」


そう言って、聡美は帰ったらすぐに通販で買うことを決心した。


そのとき、ひとみが少し身を乗り出して声をかけた。


「ところで、スマホの写真、取り込み方わかる?」

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