第15話 大切なものを守るために

登場人物:聡美(視点)、ひとみ、悟、結愛(名前のみ)


ひとみの家を訪れるのは、いつもの保険の定期訪問だった。

玄関を開けて迎えてくれたひとみは、エプロン姿のまま笑った。


「ちょうどお昼片付け終わったところ。旦那は出かけてるから、あがってあがって」


テーブルの上には湯飲みが二つ、もう準備されていた。


「実は……あたしも買ったんです。“おもいでばこ”」


ひとみが「ほんとに?」と目を丸くした。


「デジカメの写真を入れてみたら、出てきたんです。例の……あのときの写真」


「お祭りの?」


「はい。浴衣の写真、ありました。娘とふたりで写ってるやつ」


「……あの子も、大きくなったわよね」


ひとみが懐かしそうに言った。


聡美は笑ってごまかした。

(そういえば、最後に会ったのは……もう、半年くらい前か)


結愛。

今年はもう大学受験を控えている。

多感な年頃だけれど、素直に育ってくれて、いまも母親のことを気遣ってくれている。

だけど、自分のほうが、どうしても“会わない理由”を作ってしまっている。


「ただいまー」


玄関が開き、悟の声が響いた。


「悟、ちょうどよかった。聡美さんね、“おもいでばこ”買ったんですって」


「そうなんですね!じゃあ、バックアップの設定はしましたか?」


「えっ……いえ、まだ……」


悟は苦笑いを浮かべながら、ソファの横に腰を下ろした。


「おもいでばこは便利なんですけど、保存してるのはデジタルデータですから。たとえば雷で家電がやられたり、間違えて初期化しちゃったり……そういうことで全部消えちゃうってこともあるんです」


聡美の表情が少し強張った。


「……怖いですね、それ」


「だから、バックアップは大事です。外付けのハードディスクに、まるごとコピーしておけるんです。定期的にやっておけば、もしものときにも戻せるようになります」


そう言って悟は、カバンからノートパソコンを取り出した。


「今日はついでに、バックアップ用のおすすめのキットもご紹介しますね」


聡美は、彼の手元を見つめながら、小さくうなずいた。

守りたいものは、たくさんある。

だったら、それを守るための備えも、大切にしなきゃいけない——そう思った。

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