2 【地方誌の記事】 8月25日
奇跡の生還者が語る、あの日の真実
― 仲林篤さん(74)・栄子さん(69)夫妻に聞く ―
「――あれは、ただの地鳴りじゃなかった。もっと奥の、身体の内から響いてくるような音でした」
そう振り返るのは、昭和49年8月21日に土砂崩れと大規模火災によって壊滅した萱原村の生存者のひとり、仲林篤さん(74)とその妻栄子さん(69)である。
あの日、夫妻は萱原村にはいなかった。偶然にも、隣町の病院に入院していた息子の見舞いに出ていたのだ。
「夕方に村を出て、病院で検査に付き添うことになって、深夜までかかってしまって……」
(栄子さん)
村に戻る途中、山道で土砂が崩れているのを見て、異変を感じた夫妻は急ぎ役場に通報。消防団に合流し、現場に到着したときには、村の中心部はすでに黒煙と熱気に包まれていたという。
「まさか、村全体がなくなっているとは思っていませんでした。茫然としました」
(篤さん)
当時、村の人口は約300名。過疎化が進み、若年層の多くは都市部に出ていたが、祭りの日とあって帰省していた若者もいた。だが幸運なことに、若者たちの多くは祭りの片付けのため、山の斜面にある倉庫や納屋へ移動しており、中心部の崩落には巻き込まれなかった。
仲林夫妻は親族の女子と三人で暮らしていたが、親族の女子に関しては未だ行方がわかっていない。
「生き残ってしまったことに、複雑な思いがあります。私たちもあの日、村にいれば……」
(篤さん)
二人は涙ながらに取材を終えた。
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