第1章 第5話「初クエスト」

第1章『異世界への起動』


第5話「初クエスト」



「クエスト、受けてみない?」


 朝からフィアが、そんなことを言い出した。


「……え、マジで? まだ装備も何もないんだけど……」


「初心者向けの依頼だよ。『畑を荒らすスライムの討伐』ってやつ。武器も貸してあげるし」


「スライム……」


 あのぷよぷよの、ゼリーみたいなやつ。

 あの日、俺が――逃げた相手。


 心臓が、ドクンと大きく鳴った。


「……や、やってみる」



 貸してもらったのは、木の棒。


 剣でも槍でもなく、まじもんの“棒”。


「これで戦えるのか……?」


「大丈夫。スライム、ぷよぷよしてるだけだし、押せば潰れるよ」


 その“ぷよぷよ”にビビって逃げたとは、さすがに言えなかった。



 畑に着くと、いた。透明でぐにゃぐにゃの物体が、カブをぐしゃぐしゃに荒らしてる。


 間違いない。スライム。


 またあの恐怖がぶり返す。心臓がバクバクして、手のひらが汗でびっしょり。


「……だいじょうぶ。今度は、逃げない」


 深呼吸して、棒を構える。


「おおおおおっ!」


 気合を入れて一気に叩き込む――!


 ……が、棒は弾かれ、バランスを崩して尻もち。


「いってぇ……!」


 その隙に、スライムが跳びかかってくる。


「うわっ!」


 転がってかわす。背中が土にこすれて痛い。でも、今度は――逃げない。



 思いきって突き出した棒が、スライムの横っ腹に突き刺さった。


「うりゃあああっ!!」


 押し込む! 全力で!

 スライムの体がぶよぶよと波打ち――


 ぷしゅっ。


 中から泡がはじけるような音がして、スライムが溶けて消えた。


 息が切れる。足が震える。


「……や、やった……のか?」



 その瞬間、ふわりと白い光が浮かび上がった。


【経験値を10獲得しました】

【現在の経験値:10/30】


 俺は、初めて、“自分の手で”勝った。



 その後、震える足で2体のスライムを倒した。


 息が上がり、腕はパンパン。それでも、逃げなかった。


 そして――


【レベルが2になりました!】

【HPが少し上昇しました】

【職業に変化がありました】


「レベルアップ……!」


 急いでステータスを開く。



【STATUS】

名前:ケン

レベル:2

職業:素手闘士(ファイター)

スキル:小突き Lv.1(MP消費0)



「素手闘士……? “小突き”って……技なのか、これ……?」


「おお〜、ケンくん、近接タイプだったんだね!」


「いやいや、“小突き”て……地味すぎない!?」


「でも、スライム相手に逃げなかった。ちゃんと、自分の力で勝った。それが、何よりすごいと思うよ」


 うっすら涙目になりながらも――

 初めての“勝利”と“成長”に、胸が熱くなったのは事実だった。



「それにしても、初クエストでちゃんと成果出すなんて、すごいじゃん」


「まぁ……全力で、やったからな……」


「ふふっ。じゃあ次は、ちゃんとした装備を見に行こうか?」


「やった……ついに、棒卒業できる……!」



 こうして俺の、最初の冒険は終わった。


 たかがスライム。でも、俺には――怖かった。

 手も震えたし、逃げ出しそうにもなった。


 でも、それでも立ち向かって、勝った。


 ほんの一歩。でも、俺にとっては確かな一歩だっ

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