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快速の列車から見える光景は中々美しいものだったが、いかんせんすぐに流れていくので酔いそうになる。人生初のその体験に感動する暇はないらしい。
少女は───千歳と名乗った少女は、僕の真ん前のシートに座っていた。
メインシティへは買い物に来ていたらしく、今も忙しなくバッグの中を手繰っている。
さて、僕はこの奇妙な状況を説明する術は持ち合わせていない。シンプルに困惑するだけだ。
考えてみれば、僕は彼女が何者か知らないし、彼女も僕が何者か知らない。僕は、ただ弱みを握られているだけで、彼女はただ弱みを握っているだけ。
それなのに、千歳は僕に付いてきた。いや、彼女はアウトシティに住んでいるから、ついてきたというのはいささか不適切か。
「おもしろそう」と千歳は言ったが、「危険そう」とは思わなかっただろうか?世界のデータの修復だなんて、常人なら食いつかないと思うのだけれど。
ちらっと千歳の顔を見る。すると視線が合った。千歳の瞳がくっと大きくなり、直ぐに視線がバッグの中に落とされた。
…照れた…のか…?
わからない、千歳がわからない。危険人物かと思ったらふつーに女の子な仕草を見せてくる。
やはり頭からハテナマークが消えない。
僕はふぅとため息を吐いて、外の景色を見る。少し先にマジノ駅のホームが見えていた。このハテナ時間もそろそろ終わりを迎えるということだ。
アウトシティに着いたらゆっくり話せそうなところを適当に見繕って、それから彼女に色々と話を聞こう。彼女のことが知りたい。それに生活のことに関したって、アウトシティ初心者の僕は何も分からないし。
まぁなんだかんだ言って、僕の第二の人生は愉快なスタートを切りそ
「あーっ!!!」
千歳が急に金切り声とも取れる奇妙な叫びを上げた。
「買い忘れっ買い忘れた!数量限定のレコード!ごめんっ戻って買うから!」
彼女がそう言ったと同時に列車は止まり、扉がすぱんと開いた。
ひどく動転した様子の千歳は目にも留まらぬ速さでシートを飛び上がり、ホームを経由し丁度来ていたミズーリ行き上り列車に駆け込んでいった。
僕も追って列車を降りたのだが、すでに上り列車の扉は閉まり、轟音を立てて出発していた。 ふと思い出す。レコードといえば、確かメインシティのゲームショップに兜散盧鼓とかいうシューティングゲームのサントラが販売されていた。数量限定のレア物だったと思う。
「アウトシティに何しに行くの?」
と、彼女の言葉が思い出される。
僕は一人寂しく笑った。
…お前こそ、メインシティに何しに来たんだよ…?
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