第13話 駄菓子屋にて、藤原と池田、再びガリガリ君を語る
ジリリリリ…! と、昭和レトロなアラーム音が駄菓子屋「ふじや」に響き渡る。店内には、所狭しと並べられた色とりどりの駄菓子、懐かしいキャラクターグッズ、そして子供たちの歓声が溢れかえっている。そんな喧騒の中、奥のゲームコーナーで一人黙々とレトロゲームに興じているのは、いつもの藤原聡美だ。
「藤原君!こんな所にいたのかね!今日は君の大好きなガリガリ君を、特別に駄菓子屋で買ってやるぞ!」
息を切らせて駆け込んできたのは、池田教授だ。両手には、大量のガリガリ君ソーダ味が詰め込まれたビニール袋が、今にも破れそうになっている。
「教授、なぜ私が駄菓子屋にいると?研究室にいるべき時間のはずですが。」
藤原は、ゲームから目を離さずに答える。
「いや、それはだな…君が毎日毎日インスタント麺ばかり食べているから、たまには違うものを、と思ってな!ここは、子供の頃の懐かしい思い出が詰まった、夢のような場所だぞ!ガリガリ君を片手に、童心に帰ってみるのも悪くないだろう?」
教授は、汗を拭いながら、ガリガリ君を藤原の前に差し出す。
「童心、ですか。感情的要素は、私の研究計画には含まれておりません。また、この場所の騒音レベルは、研究活動の集中力を著しく低下させる可能性があります。」
藤原は、淡々と答える。ピコピコと鳴るゲームのBGMが、教授の焦燥感を煽る。
「しかしだな、藤原君!このガリガリ君は、ただの氷菓ではない!この駄菓子屋という空間、そしてガリガリ君の冷たさ、ソーダの爽やかさ、それらが一体となって、特別な思い出を呼び起こすのだ!君にも、子供の頃、ガリガリ君を食べた記憶があるだろう?」
教授は、必死に訴える。藤原は、一瞬だけゲームの手を止めた。
「…ガリガリ君、ですか。1981年の発売以来、多くのフレーバーが展開され、その市場浸透率は極めて高い。しかし、幼少期の記憶は、客観的データとしては不確かであり、再現性も保証されません。」
藤原は、再びゲームに没頭する。教授は、ガクリと肩を落とした。
「しかしだな、藤原君!このガリガリ君には、当たりが出たらもう一本もらえるという、ワクワク感があるのだぞ!君も、子供の頃、当たりを夢見て、ガリガリ君をかじり付いた記憶があるだろう?」
教授は、最後の望みを託すように、ガリガリ君の棒を指し示す。
「『当たり』の出現確率は、公式発表によると4%未満。極めて低い確率であり、そこに期待することは合理的ではありません。また、過去の記憶は、現在の行動指針としては不適切です。」
藤原は、ぴしゃりと言い放ち、ゲームのクリア画面を見つめる。
「ハァ…まったく、過去の思い出も、未来への希望も、持ち合わせていないロボットめ…。」
池田教授の呟きは、駄菓子屋の喧騒にかき消される。彼は、大量のガリガリ君を抱え、悄然と店を後にした。彼の壮大な「藤原聡美改造計画」は、この日もまた、儚く散ったのだった。
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