堕ちる
逢初あい
墜憶
今日は、僕の結婚式だ。相手は大学時代から付き合っている後輩で、奇しくも僕と地元が同じだった。彼女は幼い頃に、家庭の事情で地元を離れて長いことそれから一度も戻っていないと言っていた。以前彼女からそんな話を聞いた時に、僕はずっと心残りに思っている事を彼女に打ち明けた。
僕には幼馴染の女の子がいた。彼女とはとても親しく、子供ながらに将来を約束し合った仲だった。ある時、彼女が僕に言った。私はとても遠い所へ行かなきゃいけないの、と。彼女の家は随分と複雑な家庭環境だったらしかった。当時の僕は、何も知らない無知な子供だった。僕は彼女に、どこへ行っても必ず会いに行くよ!と言って小指を差し出し、指切りをした。翌日、彼女は姿を消していた。後から聞いた話では、夜逃げだったのでは無いかと実しやかに囁かれていた。僕の地元は、田舎の小さな街だったためそういった噂はすぐさま広まった。そうした事もあって、僕も次第に彼女のことを思い出さなくなり、いつしか約束の事も忘れてしまっていた。しかし、大学で彼女と出会い、交際し結婚を決めプロポーズをした日の夜、幼馴染の彼女のことを思い出したのだ。僕は彼女のことを必ず探さなければならないと思った。幼いながらにした結婚の約束を反故にするだけならばまだしも、今にも泣き出しそうな彼女に対して僕はなんとも無責任なことを言ってしまったのだ。その責任は果たさなければならない。
結婚式は筒がなく進み、その日の全ての予定が終了した。彼女、いや妻にも幼馴染のあの子を探したいと言うことは伝えてあった。妻は快く了承し、自分も手伝うと言ってくれた。僕達は服を着替え、帰路に着こうとしていた。遅い時間に結婚式を始めたため二次会などは行わなかった。そんな僕達に所へ、学生時代の共通の友人2人が一緒に写真を撮ろうと言ってきた。彼らは仕事の都合で海外に行かなければならないらしく、もう会う機会も殆どないからと言ってきた。どうせなら景色の良いところで撮ろうと言うことになり、式場のある建物の屋上へ向かった。屋上はやや風が強く周囲の音が聞こえづらかった。僕の両脇を友人達が固め妻が前でインカメラで撮っている。詰めて詰めて〜と妻が言いながら切る。撮影した写真を見せながら嬉しそうに、良い笑顔ね〜などと言っている。妻は僕に近寄りそっと抱擁した。そして、幼子をあやすような優しい口調で僕に言った。
「大丈夫よ。きっと会えるわ。安心して、私も手伝うからね。」
妻はいつだってそうだった。優柔不断で踏み出すことの出来ない僕の背中をいつだって押してくれた。彼女に会えたらちゃんと伝えなくては。君の妹のおかげで君に会いに来れたよ、と。
堕ちる 逢初あい @aiui_Ai
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