第2話


「んー…、起きて、黒くん」


「無理…、あと三十年」


「でも、その時には…__」


「起きた。おはよ草太」


「あ、うん。おそよう黒くん」


トイレに行ったあと、二人で寝ちゃったみたいだ。


気付けば外は若干晴れていた。


そして同時に、暗くなっていた。


「病院内でも歩く?暇だし、起きちゃったし」


「ごめん、僕が起こしちゃったね」


「いいよ。草太といる時間が長くなって嬉しい」


黒くんも僕も、


明日朝起きた時には心臓が止まっているかもしれない。


明日朝起きた時には重症化しているかもしれない。


そういう点では、やっぱり友達と長くいれたほうがいいのかな。


「ちょっと、外歩こうぜ。ついでに、したいことあるし」


「?うん、分かった。」


***


長くて暗い、


(電気がついているからそこまで暗いわけではない)


細い廊下を歩いて、15分くらい。


着いたのは、看護士さんがいる場所。


「すいませーん、明日一日外出たいんですけど」


「えっ、黒くん明日行くの?」


看護士さんがこっちに来て、許可証をくれた。


ついでに、僕の分も貰った。


明日が、楽しみかもしれない。


明日、死ぬかもしれないけど。


***


「…」


夜はちゃんと自分の病室で寝た。


いつものおじさんも静かで、なんだか寂しかったけど。


「お、おはよう。今日もがんばるか」


「はい、まあ。はやく治したいですから」


そう言うと、おじさんは笑って、


頑張れよの一言だけ言った。


僕は、いつものように黒くんの所へ行った。


「おはよう黒くん」


「おう、おはよう草太!」


今日も元気か?と聞いてきたので、


僕は元気だよ、と答えた。


「おし、早速いこーぜ!折角許可証貰ったしさ!」


「うん、行こっか」


***


悲しいことに、あまり晴れているとは言えないけど、


それでも、僕と黒くんは笑顔だった。


久し振りの外、久し振りの空気。


すれ違う人々の一人一人をじっと見つめて、


僕たちは歩いた。


通うはずだった学校。


僕と黒くん、それぞれの家。


色々巡った。


本来、思い出が沢山つくれたであろう場所を。


巡る。ツアーみたいに。


そして、日が段々暮れてきて。


僕と黒くんは、ふたりで病院に帰っているところだった。


「楽しかった!マジで、ありがとな草太!」


「ううん、僕も楽しかった!ありがとう黒くん!」


笑顔の黒くんがとっても綺麗で、


少し見惚れてしまった。


僕みたいな薄い茶色じゃなくて、


真っ黒な髪。


ところどころハネた髪の毛があって、


黒い髪とは違う茶色の目が爛々と輝いていて、


若干肌が黒くて、


全部、僕と違う。


明るい黒くんと、静かな僕。


真反対なのに、


どうも黒くんとは話が合う。


薄い茶色の髪に、


サラサラとした髪の毛。


茶色の髪と違って黒い目で、


病的に肌が白い僕は、


お世辞でもない限り、


かっこよくないし、かわいくもない。


でも、黒くんは、


お世辞じゃなくて、本当に、


かっこよくて、綺麗で、僕の大好きな人だ。


そう考えていたら、曇っていた空も段々晴れてきて、


僕の髪も黒くんの髪も夕暮れの朱の色に染まっていた。


「ねえ、黒くん」


「なに?」


「僕ね、黒くんのこと______」


僕たちは気付かなかった。


大きな車が、


僕より、黒くんより大きいトラックが、


信号無視で突っ込んで来ていたことを。


急いで、黒くんの背中を押そう。


早く、はやく!


お願い、黒くんだけでも助かって!!!






「……ぁ」







失敗した。


失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。


失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した!!!!!!!


僕は、黒くんの背中が押せなかった。


漫画じゃないんだし、僕の腕が短かったんだ。


あーあ、言えなかった。


僕はやっぱり馬鹿なヤツ。


黒くん、ごめんね。


僕も黒くんも、助からなさそう。


最後に、言わせてほしいよ。



轟ッ、と。



体が跳ねた。


意識が薄れていく。


体の感覚が無くなっていく。


あー、体熱いや。


黒くん、大丈夫?


目を、開けてよ。お願いだから。


先にいかないで、お願い。


まだ、ふたりで退院出来てないよ。


まだ、病気、治ってないよ。


まだ、ふたりで外で遊べてないよ。


まだ、告白できてないよ____


お願い、お願い、お願い、お願い、お願い___


お願い、黒くんに好きって言わせてよ。


まだ、言えてないよ。


悲しいよ、寂しいよ。


待ってよ、待ってよ。


僕に、柏木草太に好きって言わせてよ。


お願いだよ。


お願いだから_____________


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