存在していたのだろうか。

爽田

第1話


外に出たことがなかった。


ただ、雨音が響く密室で、


大きな窓を眺めているだけだった。


梅雨だからだろうか。


昨日も、一昨日も一昨々日も雨だった。


ざぁざぁと降り注ぐ雨を眺めながら、


僕は生暖かい薄味のおかゆを食べた。


相変わらず、味は薄い。


塩とかつけられないものだろうか。


そう思いながら、今日も窓の外を眺める。


近くには小学校があって、


子供たちが勉強しているのがうっすらと見える。


ぽつりと。


気付いたら漏れていた言葉があった。


「いいなあ」


と。


その言葉を聞いた隣のベッドで寝ている人が笑った。


「はっは、お前さん学校に行っとらんのか」


気さくなおじさんで、


よく話しかけてくれる。


彼も、体が良くないのか、


僕がここに来る前からいた気がする。


「…」


「行ってみたいか?学校」


「……行ってみたいです、もちろん」


「そうか。なら早く元気にならんとなあ」


はっはっは、と笑うおじさん。


元気なのか、元気じゃないのかが分からない。


少なくとも、ここにいるということは


体はよくないということなんだろうけど。


「おじさんは行ったことあるんですか」


「そりゃあ、あるぞ。小学校にも、中学高校にも」


「へえ…」


「大学は、行けんかった。病気のせいじゃろうな」


「……大学生の頃なんですか?病気にかかったの」


「お前さんは?いつからなんよ」


答えられなかった。


声が、上手くでなかった。


おじさんは はっは、と笑って、


こちらをじっと見た。


「お前さん、疲れとるよな。寝んさい」


「…でも」


「寝ろ。早よう寝たら治る。」


おじさんはまた笑って、ベッドに戻った。


僕は、どうしても寝れる気がしなかったから、


外に出て、別の病室に向かった。


そこには、僕と同じように、窓の外を見ている少年がいた。


僕と違った黒い髪が、綺麗だ。


「……ん、草太!」


「うん、おはよ黒くん」


黒くん、というのは彼の名前だ。


磯辺 黒。


髪が黒いかららしい。


「草太、今日も元気か?俺はヨユーで元気!」


「うん、僕も元気。黒くんも元気なんだね、良かった」


「あーあ、俺も外に出れたら草太と遊べたのになあー____」


「僕も病気が無かったらいいんだけどね、はは」


かすれた笑い。


黒くんの病室の人は、最近いなくなった。


寂しげにベッドのシーツが折り畳まれている。


「なあ草太、今度外で飯食わねえ?ここじゃつまんねーし」


「そうだね、晴れたらいいんだけど…」


「別に雨でもいいだろ、それはそれで思い出じゃん」


「それもそうだね。じゃあ、明日かな」


黒くんはベッドから出て、僕を抱きしめた。


その後、「トイレいってくる」と病室から出て行った。


僕も黒くんも、病人である。


ここは、重病の人が集まる病棟で、


いつ誰が死ぬかなんて予想できない。


「待って、黒くん。僕もトイレ行くよ」


「お、連れションってやつ?」


「うん。連れションってやつ。」




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