第3話 潜入者

 任務開始からどのくらいの時間が、日時が経過したのだろうか?外は黒い霧に覆われまるで地中、もしくは潜水艇の中のように昼夜がわからない、壁にかけられている時計は全て同じ針を刺したまま微動だにしない。それにもかかわらずいくら時間が立とうと一向に空腹、眠気すら起きないとい内事実がこの映画館が異常空間であると物語っている。

 3人いたチームは俺だけになった。館内にいる異形の頭を持つ怪異、2人を殺害した映写機頭の怪物、俺は潜入直前からの2人との会話を思い出す。


「アルファチームこれより、目標の施設に到着しました」

 チームの1人が本部に無線通信を行う。

『了解、このまま通信を維持し潜入、失踪者の捜索、異常現象の打開に当たれ』

「「「了解」」」

 本部の指示に従い俺達は焼け落ちた映画館の扉を開き中に入った。

 「ひどい有様だ、よほど凄い火事だったんだろう」

 チームメイトのravenが正面玄関の惨状を見て呟く。

 「バブル期に建てられたものだ、個人経営の映画館といえど探索には骨が折れるぞ」

 今や見る影すらない破損し灰や埃に塗れた装飾品の数々を見るに火災前は豪華絢爛な内装を容易に想像できる佇まいだった。

 「土地欲しさにここまでやるとは、恐ろしい話だ」

 調査前になぜこの映画館が消失したかは事前情報は俺含めた3人は頭に叩き込んでいた。

 バブル期の少し前からここには映画館が存在した。その頃から親しまれていた映画館だったがバブル期に入るとその土地を欲する地上げ屋が借金で首の回らない奴を使って上映中の映画館に放火したのだ。結果、負傷者21名、死者66名の被害を出す大火災となった。

 バブル崩壊後、土地の価値は下落、周辺一帯はゴーストタウンと化した。映画館はその後心霊スポットとして一時有名になり行方不明者が出るようになった。

 当初は土地の利権を掠め取ったヤクザが不届者を秘密裏に消していたと考えられていたが再開発となり解体作業員が入ると今度は作業員達が行方を暗まし、更には土地の管理者すら行方不明になる始末。そこで我々は組織の命令によりこの施設の謎の解明、可能であれば解決するべくこの地に赴く運びとなった。


 「うお、これは!」

 「どうした、raven?」

 不意にravenが声を上げる、falconが売店であったであろうエリアから何やら商品らしきものを取り出していた、どうやら特撮のグッズらしい。

 「それがどうかしたのか?」

 「今じゃ入手困難なんですよ、これ」

 「やめろraven!俺たちは火事場泥棒に来たんじゃない!!」

 やりとりの中、急に場の空気が重くなる。

 「falcon、strix、あれ……!」

 先程まで上機嫌だったravenの表情がみるみるうちに青ざめていく、彼が指差す方向は自分たちが侵入した正面玄関がある。


 「おいおい嘘だろ?」


 自分達の作戦行動の開始時刻は明朝、なのにも関わらず外の景色は完全な暗黒、黒いモヤで埋め尽くされていた。

 「くそっ、開かない!」

 falconが扉を押しても引いても扉はびくともしない。

 「う、うわあああ!!!」

 ravenが絶叫を上げる、彼の視線の先には頭がポップコーンの容器でできた異形が立っていた。会話がないがravenが取り上げたグッズを返すよう指示するジェスチャーをしているのが窺える。

 

 映画館の奥の方から鈍い金属音が聴こえる。扉に悪戦苦闘してたfalconも異形頭に恐怖していたravenも、そして俺自身も音源の闇に釘付けとなった。


 頭部が映写機、更に身体は消し炭のように黒いかろうじて人型を保つ異形の化け物がそこにいた。


 「うおおああ!!!」

 

 最初に発砲したのはraven、発射された弾丸は正確に怪物に命中。


 したはずだった、怪物は弾丸なぞ意に介さずravenをその巨大な黒い手で彼を掴みに握り潰した。ravenは声にならない断末魔を上げ絶命した。

 「こっちだ、strix!」

 falconが怪物のいる方向とは逆の通路を指差す、俺はfalconと共に通路を駆け抜けた。怪物は丸焼けのravenを握り締めてこちらに向かってくる。

 曲がり角を曲がった瞬間にトイレが見える。

 「ひとまず隠れるぞ!」

 falconの言う通り曲がり角の先にあったトイレに入り息を潜める。怪物は俺達を探す素振りすら見せずにトイレを過ぎて奥の部屋、おそらくシアタールームの中へと入っていった。

 「くそ、ravenがやられちまった」

 「悔しがっても奴は戻らん、脱出を最優先の目標として動こう、本部に連絡だ」

 無線を確認するも応答がない、スマホの画面を見るも圏外。

 「まずいな、こっちも繋がらん、自力で脱出するしかあるまい」

 こうして俺達はravenを連れ去った怪物が入っていったシアタールームから調べることにした。

 「なんだこれは……!」

 シアタールームにある座り心地の良さそうな座席には無数の焼死体が存在した、作業着を着たものから若い男女、様々な焼死体がずらりと並ぶ惨状の中にravenの亡骸も鎮座していた。

 「こいつらは神隠しにあった人達か!」

 「恐らくな、報告資料と誤差はあるが人数が近い」

 falconがravenの亡骸を見つめながらしばらく沈黙した後に口を開く。

 「……ここに来る条件がわかったぞ」

 「本当か!?」

 「ああ、恐らくこの廃墟内でマナー違反、今回ならravenの窃盗がトリガーだ、その後に化け物に発砲しそれが原因で殺された。だからルールを破ってない俺達は無視された」

 falconの推理は確かに納得がいく、だが一つの疑念が生まれる。


 チケットも無しにシアターに入るのはルール違反ではないか?と。


 「falcon、もしあんたの推理が正しいかったのなら一刻も早くここを出た方がいい、俺達馬チケットを持たない部外者だ」


 突如ブザー音が響く、それは上映開始の合図。

 「まずい!すぐここから出るぞ!!」


 天井から何かが落ちてくる、それはravenを殺害した映写機頭の怪物であった。


 「strix!俺に構わず先に行け!」

 「あんたはどうする!?」

 「2人で逃げても助からん殿は任せろ、お前は生きてここを脱出しろ!!」

 falconは銃を構え怪物と対峙する、俺は全速力で出口に向かいシアタールームを退室した。

 背後ではfalconの断末魔がシアター内にこだました。


 瞬く間に仲間2人を失った俺は怪物から姿を隠しながら潜伏し続けて今に至る。自分以外にも生存者がいるらしいがあの怪物と遭遇すれば間違いなく俺は殺される、迂闊に行動できずに時は流れる中、ある男が映画館に入ってくる。姿2030だが、彼の服装は病院の入院着のようなもので、こんな場所に来る格好では到底なかった。そしてさらに驚いたのは彼があの異形達と会話しているのだ、あの異形達が口がない頭部でどう喋っているのか一切不明だが間違いなく会話が成立している。俺は恐る恐る男に声を掛けた。











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