第2話 生存者と犠牲者

 「彼ですか?彼は当館の館長です」

 館長と呼ばれる怪物の詳細を売店員スタッフに質問すると素っ気ない返事が返ってきた。

 「いや、館長なのはわかった、なんであんな、なんて言えばいい?君の雇い主を悪く言いたくないけど……な?わかる?」

 あの異形を目撃した結果、伝える言葉が出てこずにいた。何故彼はあんな異形なのか?そもそも彼らは何故異形と化したのか?燃え落ちた映画館を切り盛りする理由が知りたい。

 「それには私がご説明いただきます」

 背後からの気配と声に咄嗟に振り向く。そこには二人の人影、そこにはポップコーン頭と同類の異形の姿があった。

 

 一人は何かのリスト、注視すると映画館の上映スケジュール表が頭とすげ変わったスーツ姿の異形。恐らくはフロアマネージャーにあたる人物なのだろう。そして背格好から女性と推測できる。

 もう一人はチケットの束が頭となった異形。恐らく彼がこの館のチケット係なのだろう。


「まずはチケットを拝見させていただきます」

 本日二度目のやりとりだが断る理由はない、私はチケットを彼に渡した。

「……沢田様ですね」

 渡したチケットを目玉すらないチケットの束がまじまじと確認する。

 こちら、、シネマd@wag3j¥にようこそおいでくださいました。当館、になるまで心置きなくお楽しみくださいませ」

 またしても映画館の名前が聞き取れない、まるで放送規制でめ入っているかのように不明瞭だ。正直、早く帰りたいのにこの煤けた映画館で何を楽しめというのか?

 二人が何かを思い出したかのように顔挙げる、目のない視線は私の背後を捉えているらしい。

「あともう一つ、

「あちらの方のように」

 不意にスケジュール表頭が手のひらで背後を差す、振り返ると光のない薄暗い通路から危機迫る表情でこちらに向かってくる白装束の男の姿があった、霊媒師や祈祷師のような出立ちのその男の背後には彼らが館長と呼ぶ映写機の怪物、怪物は白装束の男を掴み上げ両手で握りつぶす体制に入る。

 男からおよそ人間が出すとは思えない絶叫が響く、館長の黒焦げの手に触れられた男の身体はみるみる内に館長とお揃いの消し炭と化した。

 「決して取り乱さぬようにお願い致します、館内で騒ぐのはご了承ください」

 男がもの言わぬ炭になると館長はその亡骸を引きづり闇の中に溶けていった。


 「いったいあれはなんだ?」

 私は小声でしかし語気を強め彼らに尋ねた、ポップコーン頭の売店員にも質問したが今目の前で起きた惨状に聞かずにはいられなかった。

 「あちらは当館を取り仕切る館長、kdpa@2d1です、不法侵入はもちろん、マナー違反はご遠慮ください」

 館長の名前も聞き取れない、固有名詞が伏せられているようだ。

 「こちら本日の上映スケジュールとなります」

 スケジュール表の頭をしたスタッフが上映スケジュールを手渡すシュールな光景、彼女の見るもその表に書いてある文字は完全に文字化けした単語にすらならない文字の羅列がびっしりと書かれていた。

 「ど、どうも」

 ひとまず礼を言いスケジュール表を見る。

 「ごゆっくりおくつろぎください」

 そう聞こえスケジュール表に目をやる顔を上げるとそこにチケット係とフロアマネージャーは影も形もなかった。

 「なんだよ、まだ聞きたいことが山ほどあるのに」

 周囲を見回すもあの売店員の姿も消えていた。

 「あんた、あいつらと喋れるのか?」

 声の先には映画館には不釣り合いなスーツ姿の男が観賞植物の影から顔を出していた。

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