第25話『宣戦布告:ベルツェ』

僕たちは急いで王都へ戻ってきた。


 目的はただ一つ――《超越反応》の正体を突き止めるためだ。

 もしルーザが関与しているのなら、この目で確かめなければならない。


 しかし、王都の様子は明らかに異常だった。


 城壁の外周には、見渡す限りの兵士たち。

 一つの門だけで数万、さらに城壁を囲うようにびっしりと詰めかけた兵たち。そして、上段には狙撃兵が弓を構え、いつでも撃てる体勢を取っている。


 それは防衛ではなく、完全な“封鎖”だった。


「なに……この兵士の数……」


「やっぱり、ただ事じゃないな……」


「うう……ベルツェが……こんなことになるなんて……」


 アリスの声には、祖国への愛と深い不安が滲んでいた。

 隣で拳を握りしめているオーディンの表情も、怒りと戸惑いに揺れている。

 信じていた故郷が、まるで敵に変わったかのような光景に、心が追いつかないのだろう。


 そして僕は、兵士たちの目に違和感を覚えていた。


 彼らの視線は虚ろで、意志が感じられない。

 まるで生きていながら魂を失ったかのように――ただ、命令を待つ機械のようだった。


 そしてその先。

 王都の中心部から――かすかに感じる、あの独特の波長。


(間違いない……あれは《超越反応》。ルーザがいる)


 すべてがつながった。

 過剰な警備、兵士の異常、そしてこの王都の閉鎖。

 すべての元凶は――ルーザに違いない。


「どうする……?」


 アリスが、不安げに僕を見つめる。


「どうするって……正面突破なんて無理だろ、あの数じゃ……」


 オーディンも歯を食いしばりながら答える。


 そのときだった。


「――それは、俺たちに任せろや!」


 背後から響いたのは、低く、威圧感に満ちた声。


 僕は即座に振り返る。そして、目を見開いた。


「お前は……!」


 そこに立っていたのは、かつて僕と決闘を交わしたギルド最強の男――ヘロー・スピーツだった。


「へ、ヘロー……!?」


「なんでヘローさんがここに……!?」


 驚くアリスとオーディンに、ヘローは親指で後ろを指しながら豪快に笑った。


「俺も帰ろうと思ったんだが、門で止められちまってよ。

 仕方ねぇから、ここでたむろしてたってわけだ!」


 どうやら、王都は事実上の封鎖状態にあるらしい。


「まさか……お前が、あの兵士たちを?」


 オーディンが半信半疑に問うと、ヘローは力強く頷いた。


「ああ! 任せろや!」


「でも……ヘローさんひとりで、あの数はさすがに……」


 アリスが不安げに声を漏らしたその瞬間――


 ヘローの背後から、続々と姿を現す冒険者たち。


「俺はひとりじゃねぇぜ!」


 百人を優に超える冒険者が、堂々と並び立つ。

 戦士、魔法使い、回復役、見慣れぬ顔の者たち――

 彼らはそれぞれ、自分の意思でこの王都の異変に気づき、集まってきたのだ。


「だけど……その人数で突入したら、王都に対して“宣戦布告”になるよ……」


 アリスの言葉に、場が一瞬だけ静まりかえる。


 だが、その沈黙を、ヘローは豪快に打ち破った。


「関係ねぇよ!

 “正しいこと”をするのに、誰の許可がいるってんだ?」


「でも……!」


「これは宣戦布告だぜ!」


 ヘローが叫ぶと、冒険者たちも一斉に声を上げる。


「おおおおおおお!!」


 その喧騒に、僕は小さくため息をついた。


「はあ……全く……」


 けれど、内心は……少しだけ、熱くなっていた。


「アリス、オーディン。行こう!」


 僕はそう言って、ヘローたちの背中を追って走り出した。


「えぇ……ちょっと、待ってよぉ……!」


「ファルカ……お前ってやつは!」


 オーディンもようやく気持ちを切り替えたようで、後を追ってくる。

 アリスは渋々ながらも、それでも足を止めることなく僕たちに続いた。


 こうして――


 これは後に《ベルツェ大反乱》と呼ばれ、

 歴史にその名を刻むこととなる出来事の始まりである。

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