第26話『大魔王:インフェルノ』

叫び声と、苦痛にもがく声が王都ベルツェに響き渡っていた。

兵士たちを次々と薙ぎ倒し、僕たちは中央へと進撃していく。


中には、猛攻に耐えきれず、倒れていく者もいた。

それでも――誰ひとり、立ち止まらない。


「行けぇッ!!」


ヘローの声が、戦場に轟いた。

冒険者たちもそれに呼応するように叫ぶ。


「うおおおーーーっ!!」


士気は最高潮。

そして、僕たちはついに王都ベルツェの中央広場へと到達した。


そこに、ひとり――待ち構えていた者がいる。


「来たか」


そう言ったのは、ルーザだった。

炎を背にしながら立つ彼女の表情には、どこか影が差していた。


「ルーザ……お前がなぜ《超越魔法》を……」


僕の問いに、彼女は静かに口を開いた。

その声は震えていた。


「最初は、ただ興味があっただけ……。でも、知ってしまった。あれが、何なのか」


その瞬間、僕は確信する。

――すでに、魔王が目を覚ましている。


あの存在は、かつて歴史に刻まれた大魔王。

幾人もの命を賭して、ようやく封印された災厄。


いくら強いルーザでも、一人で抗える相手じゃない。


「けれど……私は《エクシード・フィネス》を扱えない」


そう言ったルーザの瞳には、悔しさと覚悟が混ざっていた。


「それでも、アルス・ファルカ。私は――お前に勝たなければならない」


直後、ルーザの足元に魔法陣が展開された。


風魔法エルバース!」


轟音とともに、広場全体を巻き込む巨大な竜巻が巻き起こる。


「うわっ!?」


「まずい……!」


風の奔流に巻き込まれ、僕たちは宙を舞った。

だが、ルーザは止まらない。


炎魔法オールファイガー!」


灼熱の炎が風と融合し、火の竜巻となって荒れ狂う。

その熱波が容赦なく仲間たちを襲う。


「ぐっ……!!」


「オーディン!? 大丈夫ですか!?」


すでに状況は、壊滅寸前。

だがルーザは、なおも呪文を紡ぐ。


雷魔法ザンラーイト!!」


光が裂け、雷が天から地を貫く。

次々と最上位魔法を繰り出すルーザに、僕たちはまるで歯が立たない。


……そう“思われた”そのときだった。


「――と思っていたか、ルーザ!!」


閃いた。

頭の中に、雷光のように。


超越魔法エクシード・フィネス!」


僕の中で、魔力が臨界を超える。

勝利を――確信した。


超混合魔法フルエクシード!」


空間が震え、超巨大な魔法陣がルーザの眼前に顕現する。

とてつもない魔力が、そこに集約されていく。


だが――ルーザは、逃げなかった。


「……!」


怯えも、抗いもせず。

ただ、その場に静かに立ち尽くしていた。


慈悲はない。

僕は、僕の平穏のために、すべての悪を断ち切る。


《フルエクシード》が、放たれた。


その瞬間、ルーザの表情に浮かんだのは、戦士の覚悟――

あるいは、深い諦めの色だった。


ベルツェに一瞬の静寂が訪れる。

そこに、ルーザの姿はなかった。

逃れたのか、それとも――消えたのか。

それを知る由もない。


だが、考えている暇はなかった。


ベルツェ城の奥から、一歩、また一歩と、重く響く足音。


巨大な影が姿を現す。


頭には捻じれた角。

瞳は赤く光り、ただ存在しているだけで空気が歪む。

その体躯は、城門にぴったり収まるほどの巨体。


その姿を見た瞬間、誰もが理解する。

――この世界の終わりが、始まったのだと。


大魔王インフェルノ――その者が、姿を現した。


「貴様がアルス・ファルカか……」


その声は、地の底から響くように重く、冷たい。


「いい目をしているな。……我は魔王インフェルノ

我が復活したのは復讐のためでもあり、我が野望を叶えるためでもある」


その悍ましい姿に、皆が言葉を失い、ただ震えている。


僕は拳を握った。

そして、心の中で呟いた。


――いよいよ、最後が来る。

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