怖い話

@Densama114

壁の向こうの音


社会人1年目の「ユウト」は、念願の一人暮らしを始めた。築年数の古いアパートだが、家賃が相場よりかなり安い。それもあって即決した。


初日の夜、ユウトは布団に入り、静かな部屋でウトウトしていた。

そのとき、壁の向こうから音が聞こえた。


——コツ、コツ、コツ……


隣の部屋の住人が何かしてるのかと思ったが、時計を見ると午前2時。それに、同じ間隔でずっと響く。しかも、壁際に耳を当てると、それはまるで「壁の中」から聞こえてくるようだった。


次の日、不動産屋に聞いた。


「隣? いや、あなたの隣の部屋、もう10年以上空き家ですよ」


ゾッとした。でもきっと配管かネズミか何かだと思い込むことにした。


それから毎晩、同じ時間に「コツコツ」という音が続く。

段々と音が壁の中を這うように移動してきた。


ある夜、ついに音がユウトの部屋の中まで来た。


コツ、コツ、コツ……


振り向くと、天井の隅に小さな「穴」が空いていた。

そこから音がしていた。


恐る恐るスマホのライトで照らすと、穴の奥に「目」が見えた。


じっと、こちらを見ている。


──その日以来、ユウトは部屋に戻っていない。


けれど今もその部屋には「人の気配」があるという。

深夜2時、「コツ、コツ、コツ」と、何かが壁を叩く音と共に。

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