【短編】異世界で異世界転生ものが流行ったら

和ふー

異世界で異世界転生ものが流行ったら

「リク、リク…これ見ろよ!」

「何だいユウ。…珍しいね君が書物なんて持ってくるなんて」

「そんなことはいいんだよ。これ見てみろよ。めっちゃ面白いんだ!」

「ふーん、ナニナニ…異世界転生?」


 幼馴染みのユウが目を輝かせて見せてきた書物のタイトルにはデカデカと『異世界転生』と書かれていた。

 聞き慣れない単語に戸惑うリクに対して、読み進めるよう促してくるユウ。

 そんな彼の圧に負けたリクはその書物に目を通してみる事にした。


 その書物では、この世界では平凡な主人公が、別の世界に転生し、様々な活躍をする物語であった。

 それだけなら良いのだが、ハッキリ言うとあまりにも現実感の無い設定であった。


「生まれ変わって成功するってコンセプトは分からなくもないけど、この世界だと『火球』どころか『点火』しただけで持て囃されるというのは…」

「いやいや。魔法って概念が殆ど存在しない世界なんだよ」

「それにしては皆が主人公が使う行為が魔法だと認識しているが…それに魔法は無いのに生活や文化水準は恐ろしく高いし」

「もう! リクは細かすぎなんだよ。そんなことにいちいち突っかかるなよ!」

「すまない。うーむ」



 確かにユウの言う通り、設定的に面白い要素は多い。

 魔法の才能が無かった主人公だが、幸いにも異世界では魔法が全く発達しておらず、此方では馬鹿にされるような魔法でも称賛されるというのは、中々に痛快である。

 ただユウが細かいところに引っ掛かる性格なのも良くないのか、この書物を読み進める手がイチイチ止まってしまう。

 


「…ユウ。この主人公が幼少期から研鑽している、五教科ってのはなんだい?」

「それは『学問』だよ。これが高いと良い学校や良い就職先に行けるんだ。この主人公は全教科適性があるから、最高ランクの学校に進学するよ」

「そうなんだ…」

「基本的に異世界転生する主人公は全教科適正があることが多いけど、中には数学特化だったり…あ、数学ってのは算数の上位学問のことね」

「ああ、うん」


 色々と専門用語が飛び交うが何となくは分かる。

 つまりは此方の世界で言うところの魔法や剣術と言った所だろう。こちらの世界では魔法や剣術が卓越していればそれだけ進むべき道が開けるのと同様、異世界では『学問』ができるほど評価されるのだろう。


「でもこの主人公は、こちらの世界ではあまり努力をしてこなかっただろう? それなのに異世界に行ったら、『学問』については努力を惜しまないというのは…」

「それは…才能があるからね。才能があれば努力もするよ」

「そんなものか? いくら才能があったからと言って異世界に行ったユウが読書好きになる姿は想像できないが」

「するよ! 俺が異世界に行ったらめっちゃするから!」

「ふむ」


 それからリクは読み進める。

 ヒロインに不治の病が見つかるも、主人公が元の世界でたまたま見ていた『魔法書』の知識により完治し、それによりヒロインから好意を抱かれる展開。

 主人公が権力者に潰されそうになるも、『学問』と同様研鑽を続けてきたスキル『投資』を使い、その権力者が取締役の代表を務める企業の株式を大量に保有した上その権力者を解任する、ざまぁ展開などなど。


 物語としては面白いのだが、何ともツッコミどころが多い展開ばかりであった。


「な! 面白かっただろう」

「うん。そうだね」

「俺も異世界転生できないかな!」

「…ユウは異世界に行ったら何がしたいの?」

「そうだな。『学問』の才能で学歴厨たち相手に俺tueee…それとも『投資』の才能で手っ取り早くFIREしてスローライフを…やりたいこと多すぎて選べないよ!」

「うん。ユウ、君は異世界に行かずこっちで地道にやっていく方が向いていると思うよ」

「ええー」

 

 仮にユウが、この主人公のように『学問』や『投資』という才能を得たとしても、才能に溺れて碌な結果にならなそうだと感じたリクは、書物を返しながら淡い期待は抱かないよう助言するのであった。

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