第9話 方針確定

部活動。それは高校生活を大きく左右する要素だ。

この学校の吹奏楽部は強いから、吹部に入れば練習漬けの生活になるだろうし、チア部に入ればキャーキャー黄色い声援を送ってもらえるだろう。


どんな部活に入るにしろ、その部活に入っているという事実が高校生活に影響を及ぼすことは確かである。

だからこそ、部活は慎重に選ばなければならない。


そんな思いを胸に、俺は放課後にみんなと体育館に来ていた。


「うわぁ、いっぱいいるね」

「見学期間ですからね。やっぱりみんな集まりますよ」


さくらと美香が「いっぱい」と言っているのは体育館に集まっている1年生の数のことだ。

今日体育館で部活動を行っているのはバスケ部とバレーボール部で、それぞれ体育館を半分に分けて活動している。俺たちが立っている手前側がバレーボール部、奥側がバスケ部だ。

それを体育館の壁側で見学している1年生が大量にいるわけだ。もちろん、俺たちも含めて。


「ところでさくら、本当にバレーボール部にするの?」

「それを確かめに来たんじゃん。ていうか、結局みんな着いてきてくれたね」

「時間はあるもの。正直私は行きたい所を決めきれていなかったし、とりあえず色々見ておこうかなって思ったの」

「とか言っちゃってるけど、ホントはあたしと一緒にいたかったんでしょ〜?」


さくらがニヤニヤしながら俺の胸をツンツンしてくる。

俺は無言でさくらの頬を片手でムニュり、そのまま指でぐりぐりしながら答えた。


「別にそんなことないのだけれど。なんなら今から別の所に行ってもいいのよ?」

「うう〜、ごえんなあい〜!ういういするのやめえぇ〜」


目を細めながら泣き真似をし始めたさくらのことは無視し、引き続きぐりぐりし続ける。

そのまま俺は美香と凛華の2人に話しかけた。


「バレー部の人って、みんな背が高いわよね」

「ですね。怜奈も結構高い方だと思うんですけど、きっと先輩たちのが高いですよね」

「ええ、私もそう思うわ。170センチ超えてそうな人の方が多くないかしら?」

「ね。ウチより全然高い」

「凛華も背は高いと思いますけどね。わたしなんてこんなちんちくりんなのに!!」

「ふふ、美香は可愛いサイズ感だからいいじゃない」

「あと5センチくらいは欲しかったです!」


美香の頭はポンポンしたくなる丁度いい位置にあるのだ。

これ以上身長を伸ばされたらイマジナリーポンポンができなくなって困っちゃうじゃないか。

美香はそのままでいてくれ!


それにしても、やはりバレーボール女子は素晴らしい。鍛えられた太い太ももは、エロさを通り越してもはや芸術の域に達している。

万歳、太もも。万歳、バレーボール。


…ん。そろそろさくらを許してあげるか。


「んはっ、ようやくグリグリするのやめてくれた…。ところで怜奈、さっきから随分熱中して先輩たちのこと見てるけど、なんだかんだバレーボール部興味あるの?」

「いや、そんなことないわ。ただカッコいいなって思って見てるだけよ」


それだけではないが。


「ええ、ざんね〜ん。怜奈も一緒に入ってくれたら楽しかったのに」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、私に球技はきっと無理だわ。向こうでやってるバスケだって…………ん?」


俺は体育館の向こうで活動しているバスケ部の方に視線を移し、そしてとある光景を目にした。


「どしたの?」

「…バスケ部の12番の人、すごい人気だなって思ったの。ほら、今も点入れたわけじゃないのに後輩とか仲間とかから凄い声援を貰ってるじゃない?」

「ああ、あの人ね」


そう、1人だけ凄く目立っている人がいるのだ。

染めてる人が多いこの学校でも一際目立つ銀髪の髪を揺らすその先輩は、点を入れても、点を入れてなくても事あるごとに色んな人に囲まれている。それも、耳をすませば遠く離れたこの場所からでも「先輩すごーい!」とか「流石!」とか聞こえてくるほどの声援を受けているのだ。

一体あの人は誰なんだ?


そう疑問に思っていると、美香が答えてくれた。


「あの人は生徒会長ですよ。城神真しろがみまこと先輩です」

「え、生徒会長? 入学式の時に前で話してた人と全く違くないかしら?」

「あの時は生徒会長は体調不良で欠席してて、代わりに副会長が喋ってたんですよ。ちゃんと聞いていなかったんですか?」

「あはは、そうだったのね。けど、そう…。あの人が生徒会長なのね…」

「あたしらは中等部の時から時々見かけてたから知ってるけど、怜奈は初めて目にするんだもんね。あの人凄いんだよ。カリスマっていうか何ていうか、常に周りに人がいるの。しかもみんなあの人のこと大好きでさ」

「アレを見れば納得するしかないわね」


人望厚い生徒会長がバスケ部に所属しているわけか。実質兼部しているようなものだ。多忙を極めているに違いない。

けど、楽しいんだろうな。

あんな風に沢山の人に囲まれてチヤホヤされるのは。


……ん、待てよ?


「……」

「どしたの怜奈、そんな険しい顔して?」

「アレですよアレ!会長が美人だから、ナルシストな怜奈は嫉妬してしまったんです!」

「ああ!怜奈はナルシストだもんね!」

「納得納得」

「好き勝手言ってくれるじゃない。まあナルシストなのはもう否定しないけれど…。だけど、そんな理由じゃないわ」

「じゃあ何でさ?」

「それは———」


よく考えれば、俺はこの美貌を生かして女子校でモテたいとか思っていながら、そこまで徹底した学校生活を送っていなかった。何となく楽しい学校生活を送っていただけだ。

まだ入学して数日だから仕方ないといえば仕方ないが、心構えはもっと盤石な物に出来ていたはずである。ならば、それに気づいた今、俺は進化しなければならない。


この学校で本気でモテモテになるには何を目指せばいいか?


答えはあそこにあるじゃないか。


「——私、生徒会に入ろうと思うの」



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