第4話 突撃!近所の東雲家!! —下—

さて、家に着いた俺はみんなを玄関で待たせて、全速力でお片付けに取り掛かった。床の小さなゴミを掃除機に食べさせ、布団のシワを伸ばし、散らかった机の上の物をクローゼットに流し込む。

そんな感じで掃除をしていたら5分ほどが経ち、なんとか俺の部屋は人が呼べるくらいのレベルまで復帰した。

まったく、唐突な訪問はやめてほしいね。常に部屋が綺麗なわけじゃないんだから!


俺は掃除を終えて一階に降り、玄関で立って待っているさくら達に声をかける。


「お待たせ。だいぶ無理矢理だけれど、何とか綺麗にしてきたわ」

「お疲れっ!じゃあ早速上がってもいい?」

「ええ、どうぞ」


俺はスリッパを人数分並べ、自室に向かって階段を登る。みんなもスリッパを履き次第登ってきた。

そのまま俺の部屋に到着し、俺は扉を開けてみんなを部屋に招く。


「はい、ここが私の部屋。どうぞ入って」

「「「お邪魔しまーす!」」」


他人の部屋に入る瞬間ほどワクワクするものはない。その気分は分かるよ?俺もそーゆー経験はあるからね。

…だけどね、部屋に入った瞬間にベッドの下とかクローゼットとかを覗くのは違うよねさくらちゃん?

ね?さくらちゃん???


「怜奈の部屋って結構広いんだねー!」

「いいな〜」

「それに良い匂いもします!金木犀ですか?」

「そうよ、よく分かったわね。ところでさくら、いい加減クローゼットを漁るのはやめてくれる?何のためにさっき片付けの時間をもらっ、た、と……」


そこまで言い、俺の口が空いたまま固まる。

さくらは棚から俺の下着を見つけ出し、ニヤニヤしながらみんなに見せつけてきたのだ。


「おうおう怜奈さんよぉ、中々責めたパンツ持ってるじゃん〜。やるねぇ〜」

「お〜!」

「流石です!」

「うっ、君らねぇ…」


女子高生ってこんな感じなの!?それに俺たち出会って数時間しか経ってないよね!?

ピチピチ女子高生のコミュ力というか馴れ合いというか、怖っ!!


ていうか、さくらの友達2人はさくらとは別タイプの人間だと思っていたけど、考えを改めないとダメそうだ。こやつら、根本的に同じである。

きっとノリと勢いで生きてるタイプだな。

…くっくっく、悪くない。


それはそれとして、俺は早く自分の尊厳を守らねば。

俺はさくらの頭を軽くチョップしつつ、黒のパンツを取り返して下着の棚にしまった。


「…コホン。さくら、次変なことしたら腕の関節が1つ増えると思っておくことね」

「ううう、酷いよぉ」

「何もしなければ良いだけの話でしょ…。ほら、早くみんなでご飯食べましょう」


俺の部屋には背の低い丸テーブルがある。普段は荷物置きと化しているが、今日はご飯を食べるテーブルだ。

みんなにその周りに座るように促すと、座り次第コンビニで買ったものを机の上に並べ出す。俺はサンドイッチとおにぎりを1つずつ買った。

注目すべきは、ヘッドホンガールがカツ丼と唐揚げ弁当と菓子パンを買っていたことだ。スラッとした体とは裏腹に、実はめちゃくちゃ大食いなのかもしれない。


そうして昼ごはんの準備を終えた俺たちは、手を合わせて「いただきまーす」した。


「ん〜!」


最初に唸り声を上げたのは例のヘッドホンな彼女だ。カツを口に入れた瞬間、頬に手を当てて目をキラキラ輝かせている。


「美味しそうに食べるわね。そんなに美味しいの?」

「うん、激ウマ」

「そうそう、凛華りんかは食事の権化だから美味しいものには弱いんだよねー。あっ、そうだ2人とも自己紹介しないとじゃん!ほれほれ、挨拶挨拶!」


メロンパンを頬張るさくらがそう言うと、2人は「そうだね」と食べる手を止めて俺の顔を見てきた。俺もサンドイッチを机に置いて2人の方を見る。


「じゃ、ウチから。ウチは斎藤凛華さいとうりんか。好きなのは食べることと楽器をやること。ドラム叩けます。よろ〜」


右手を軽く上げながら緩い挨拶をする凛華に対し、俺も小さく右手を挙げて返す。女子にしては声が低めな、カッコいい感じのクールなタイプだ。

制服のブレザーを腰に巻いていたり眠そうなジト目だったりと、凛華は全体的に空気が緩い子だが、悪い意味で言っているのではなく、その緩さが良い味を出している。仲良くできそうだ。


そして俺が視線を右にずらすと、金髪の少女と目が合った。


「では次はわたしですね。わたしは金井美香かないみか。ピアノが得意です。あとはそうですね…、読書をしたり、自分で物語を書くのも好きですね。よろしくお願いします」


ペコリと頭を下げる美香と同様、俺もペコリと頭を下げた。

相変わらずお淑やかな雰囲気なことだ。多分敬語なのはデフォルトだろう。俺も前世に1人だけずっと敬語を使っていた友達がいたし、多分心の距離によるものではないと思う。

ところで美香さん、前のめりになった時に胸をテーブルの上に乗せるのやめないですか?顔も背も小さくて可愛らしいオーラを纏ってるのに、所々えっちな空気に切り替わることが多いのは良くないですよ!

多分、この子は清楚系に見えて実は肉食タイプの童貞キラーガールだ。俺も美香から自然に色っぽさを出す術を盗み学ぼうと思う。


…ん、さくらはどうして俺のことを見つめてくるんだ?


「ほらほら、次は怜奈でしょ?」

「あぁ、確かにちゃんと挨拶はしてなかったわね。では改めて、私は東雲怜奈しののめれいな。よろしくね。趣味はゲームやアニメ、音楽とか、色んなものが好きだわ。今は家にいないけれど、里奈っていう中1の妹がいるの。同じ学校に通ってるから、いつか会ってもらいたいわ。すごく可愛いから」

「へえ、妹さんいたんだ!」

「そうよ。さくらは1人っ子?」

「そだよー。美香以外はあたしも凛華も1人っ子。ね!」

「はい、わたしにも妹がいるんですよ。小6なので里奈ちゃんとは1つ違いますが」

「そうなのね。いつか会ってみたいわ」

「ぜひぜひ!人懐っこいので、きっとあの子も喜ぶと思います!」

「そうそうー、ひかりちゃん元気で人懐っこいんだよねぇ。…そうだ、あたしも改めて自己紹介しようかな?」


首を少し傾げながら俺の目を見つめてくるさくらに対し、俺はコクッと頷いた。

さくらに関しては昔からの友達のような距離感で来られていたせいで忘れていたが、思い返してみれば名前以外のことを特に本人から聞いてはいなかったな。


「じゃあ最後にあたしも自己紹介しまーす!あはは、2人の前で名乗るのも変な気分だけど、あたしはいぬいさくら。お喋りと、可愛いものが大好きです!以上!!」


勢いよく喋り切ったさくらは、そのままメロンパンを口に運び始めた。まあうん、さくらに関して改めて感じるものはない。元気溌剌はつらつ自由奔放。元気で明るいピンク髪だ。

わざわざ確認するまでもなく、さくら、凛華、美香の3人でいるときはさくらが常に喋っているのだろうと推測できる。けれど他2人も喋りたいのを我慢してるという様子ではないし、良いバランスが取れているのだろう。俺も上手く馴染めるといいな。


なんにせよ、こうして自己紹介も終わり、みんな再び自分の買ったものを食べ始める。

そしてカツ丼をほとんど食べ終えている凛華が、壁際の棚を指差しながら俺に尋ねてきた。


「ところで怜奈、あそこのCD何〜?」

「あれは米津玄師郎のCDね。私、米津玄師郎の曲好きなの」

「おっ、ウチと同じじゃ〜ん」


そう言いながら、凛華は眉を上げて嬉しそうに答えた。そして、重ねて質問を投げてくる。


「どの曲が好きなの?」

「うーん、1番好きなのはWinnerかしら」

「センスいいじゃん怜奈。ウチもWinner好きなんだよね〜」

「ふふ、気が合うわね」

「えなに?ウインナー?」

「ウインナーじゃなくてWinnerですよさくら。流石にわたしだって知ってますよ?」

「あぁ、はいはいはいWinnerねWinner!勿論知ってるよ?勿論ね!」


うん、知らなかったんですねさくらさん。


「怜奈、見ての通りさくらは音楽方面に全く知識がないんだよね。それに、カラオケとか行くと面白いよ。最高に」

「凛華ひどい!あたしだって頑張って歌ってるのに!!」

「そうですよ凛華。さくらの歌声は幼稚園生みたいで可愛いじゃないですか」

「美香まで!!ねぇどう思う怜奈!?こーやって人のこと馬鹿にしてくる人どう思う!?」

「そんなことより私はさくらとカラオケに行ってみたくなったわ」

「だってよさくら。ウチも久々に歌いたいし、ご飯食べたらカラオケ行こっか」

「いいですねそれ!駅前にありますもんね。どうですか、怜奈?」

「いいわね。もうすぐみんな食べ終わると思うし、ぜひ行きたいわ」

「あぁ、あたしは孤独なんだね。みんな敵なんだ。みーんなみーんな敵なんだ。あぁ……」


しょんぼりしながらメロンパンをハムハムするさくらを見て、俺たちはクスクス笑い合う。

このムード好きだな。

俺は既にこの3人が好きになった。


そうして、こんな風に相手をいじったりいじられたりしている間に昼ごはんの時間は終わり、俺たちはカラオケに移動した。

 

さくらの歌声は確かに幼稚園生ボイスだった。



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