第3話 突撃!近所の東雲家!! —上—
入学式当日の日程はとてもシンプルだ。
体育館で式を挙げ、教室に移動してからは短めのホームルームを行う。それらが終わればもう解散だ。
実際、なんとなーく担任の話を聞いていたら、いつの間にか放課後になっていた。現在時刻は11時50分。ダッシュで帰れば、多分ギリギリ午前中に帰れるだろう。早く帰れて最高だぜ。
…と思いつつ、俺は帰り支度をゆっくり進めながら教室をチラチラ眺める。なんたって入学初日の放課後だ。流石に速攻で帰宅するわけにはいかないだろう。友達を作る大事な機会なのだから。
もっとも、俺は声をかけてもらうことを待つだけの、側から見たらだいぶ哀れな存在だが。
誰か話しかけてくれれば良し。話しかけてくれなかったら悲しいけど、ギリギリ良し。何にせよ、速攻で帰らず残っていることに意味があるのだ。
「あの子速攻で帰っちゃったよねウケる〜w」ってなられたら完全なる敗北である。
そうならないためにも、「誰か来ないかな〜」と周囲をチラチラ見ながら荷物を鞄にしまっていた時、桃髪の少女と目が合った。先ほども話した、
さくらは俺と目が合うなり、ヒョコヒョコ跳ねながら俺の方に近づいてきた。
「ねぇねぇ怜奈、この後って用事あるー?」
むむ!
これは絶対に何かに誘ってくる流れだ!
もちろん予定など無いので、全力で話に乗っかろう。
俺は内心ほくそ笑みながら答える。
「いいえ、特に無いわ。どうしたの?」
「良かったらこのあと一緒にお昼食べないかなーって思ってね。あたしの友達が2人ついてくるけど、一緒にファミレスでご飯食べない?」
「なるほど、ぜひ行きたいわ」
「おっけー!じゃあ早く行こ!お腹ぺこぺこだよぉ〜」
「ふふ、私も」
さくらはお腹をさすりながら、教室の扉付近に立っている2人の方に向かって親指を立てる。あそこにいる2人がさくらの友達なのだろう。2人ともさくらの親指に対して、同じく親指を立てて返した。
それにしても、すこぶる順調である。
このままお昼をみんなで食べれば、俺は今日で合計3人の友達を得ることになるのだ。スタートとしては及第点だと思う。少なくとも、ボッチ回避できただけでもありがたい。
あとは、さくらの友達2人が変な人じゃないことを祈るだけだ。
そんな願いを胸に、俺はさくらの後ろを着いて行く。そのままさくらの友達2人と合流した俺たちは、昇降口を目指して廊下を進む。
「んじゃ2人とも、この子がさっきも話した東雲怜奈ちゃんです!一般組だってさ!」
道中、さくらの紹介によって俺の自己紹介が始まった。
俺は初対面2人に悪印象を持たれないよう、同時にクールな雰囲気も損なわないよう、少しだけ微笑んで挨拶する。
「どうも、東雲怜奈よ。よろしく」
「ども〜」
「よろしくお願いします」
俺の挨拶にそう答える2人は、元気いっぱいのさくらとは多少雰囲気が異なる。
ま、違う人間なんだから当たり前だけどね。
片方は背の高いスラッとした女の子だ。制服を着崩していて、腰にブレザーを巻いている。首には水色のヘッドホンをつけていて、茶色のボブカットの髪がヘッドホンに少し触れている。気怠げな声と返事だが、不思議と嫌な感じはしない。バンドとか組んでいそうな感じだ。
もう1人の子は金髪で背が低い。長い髪をポニーテルで結び、それを左右に揺らしながら歩いているのが可愛らしい子だ。身長に対して胸がだいぶデカい気がするが、あまり気にしないようにしよう。悔しいから..!!
また、丁寧な言葉遣いなのは初対面だからなのか、それとも普段からこうなのか。
いずれにせよ、笑顔で返事をしてくれるあたり悪い人ではなさそうだ。
そう分析していると、先頭を歩くさくらが振り返りながら声を上げた。
「2人の自己紹介はご飯食べる時でもいいかな?」
「いいよ〜」
「良いですよ」
「おっけー!怜奈もそれでいい?」
「ええ、問題ないわ」
いや、問題あるだろ!俺だけ2人の名前知らないのは困るよ!
と叫びたい気持ちを抑えつつ、俺はさくらの様子を窺う。きっと何かの考えがあるに違いない。
「ならそゆことで!…というのもさ、どこのファミレスでご飯食べるか決めないとじゃん?まだ決めてなかったし、早く決めちゃおーよ」
「なるほど、確かにそれは大事だわ」
場所が決まってないのにブラブラ歩いていても仕方がないからな。さくらに賛成だ。
「じゃあ、実は怜奈次第なんだけどさ、怜奈の最寄りってどこ? あたしたちはみんな最寄り同じなんだけど、怜奈が逆の方向の駅だと面倒じゃん? この辺にファミレスって少ないし、行くならどっか別の駅に行くしかないと思うんだけど…」
「あー、実は私学校まで徒歩で来てるの。家から歩いて10分だから」
「「「えっ!?!?」」」
俺がそう言った瞬間、綺麗に3人とも同じ反応を見せた。
さくらもサラッと「みんな最寄りが同じ」とかいう衝撃的な発言をしていた気がするが、俺の言葉も中々衝撃的だったらしい。
3人とも相当びっくりしたのか、ブルッと全身を震わせながら俺の顔を見つめてくる。
その様子が少し面白かったので、俺はクスクス笑いながら説明した。
「ふふ、私は最近この辺りに引っ越してきたのだけれど、父が『せっかくなら学校に近い方がいいか』って考えで学校の近くの家を買ったのよ。私たちも家と学校が近い方がよかったし、とても便利で満足してるわ」
「便利どころの話じゃないでしょそれ!遅刻なんて絶対しないじゃん!!」
「ズル〜」
「羨ましいです…!」
「ふふふ、何とでも言いなさい」
俺は80%くらいのドヤ顔で以てみんなの文句を正面から受け止めた。ふははは、羨むがいい!!
「…む、待てよ?」
そして、俺の頬を片手でムニュムニュつまみながら不満を垂れていたさくらが、何かを思いついたように立ち止まった。
「怜奈の家そんなに近いならさ、怜奈の家でご飯食べれば良くない!?コンビニで適当にご飯買ってさ」
「ん、賛成賛成〜」
「いいですね!」
…え、ん、ええ??
そんなトントン拍子に進められても困ります!
俺は部屋を片付けてないんです!!
「…部屋を片す時間をくれるならいいけれど?」
「あはは、別に部屋が汚いのなんて気にしないよ。ねえ?」
「うん」
「はい」
「私が気にするのよ。いい?」
「そこまで言うなら別に構わないよ。まったく、怜奈は几帳面だねぇ」
「そのさ、何かあるたびに頬をムニュムニュしてくるのやめてくれるかしら?」
「断る!!」
「……」
乾さくらという人間を表すには、たった4文字で事足りそうだ。自由奔放。これに尽きる。
それはそうと、いきなり俺の家で集まることが決定してしまった。出会った初日にその人と家で遊ぶなど初めての経験だが、まあ、これも今後の糧としよう。上手く乗り越え、3人との仲を深めるのだ!
「じゃあ怜奈、案内よろしくー」
「はいはい。じゃ、みんな着いてきて」
「「「はーい」」」
昇降口で靴を履き替えた俺たちは、俺を先頭にして歩き出した。
ところで、里奈は上手くやっているだろうか?
本当は様子を見に中等部に向かいたいところだが、残念ながら今はそうはいかない。
だからこそ、そんな不安を抱きつつも俺は目の前のイベントに向けて焦点を定めた。
上手くやってみんなと仲良くなろう!!
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