第4話 私は、あんたのこと――絶対に許さない
「みんな……ちょっといいか? 少し、大事な話があるんだ」
その日の夜。
ユリナとラミリアが帰ってきたのを確認すると、村の近くの森に三人を呼び出した。
「センパイ……? どうかしたんですか?」
三人は不思議そうな目で俺を見つめる。
これから、
「俺は――このパーティから、みんなを追放する」
「「「……え?」」」
刹那、三人は氷像のように動きを止めた。
そして、それぞれが異なった反応をする。
「……い、意味がわからないわ! 私たちの何がそんなに気に食わなかったっていうのよ!」
「センパイ……私はそんなに足手纏いでしたか……? ごめんなさい……」
「……理由を聞かせてもらってもいいでしょうか?」
ラミリアは語気を荒げ、ユリナは悲しげになり、リシアは理解できないといった様子だった。
「申し訳ない、少し勘違いさせる言い方だったな……この追放は、決して三人の態度や実力が理由じゃない。三人はちゃんと俺をサポートしてくれたし、実際に凄く強い」
「でしたら……どうしてですか? ……もしかして、私たちよりも優秀な仲間が見つかったのですか?」
「いいや、三人よりも優秀な人なんて居ないし、仲間を加えるつもりもない。だから――俺は、これから一人で魔王を討伐しようと思ってる」
「ッ?! あ、あんた! 何を言っているのか、わかってるの?! そんなの無茶よ!」
「ラミリアちゃんの言う通りですっ! そんなの自殺しに行くのと何ら変わりがありません……一体、グロウさんに何があったのですか?」
「……」
多分、これを言ったら――もう元の関係には戻れない。
けれど、これ以上彼女らを騙し続けるのは俺の良心が許さなかった。
俺は、深呼吸し、覚悟を決めると――
「実は俺は……
「……え?」
「……ッ?!」
「……嘘ッ?!」
三人は、驚愕で目を見開き、口を手で押さえていた。
俺は、地面に正座し――
「――俺は今まで、勇者だって嘘を吐き続けてたんだ……今まで騙し続けて、本当にすみませんでした」
三人に土下座した。
こんなので、許されるとは思っていない。
だから、罪を償うために……これから一人で魔王を討伐しに行くのだ。
「「「……」」」
場には沈黙が走る。
三人は、何かを考えている様子だった。
「……ふぅん、そうなのですか……グロウさんは勇者じゃない、勇者じゃない……」
すると、リシアがボソボソと呟いた。
それに続くようにラミリアとユリナも何かを呟く。
「……じゃあ……あの泥棒猫……王女との婚約は無効……」
「……つまり……私がセンパイと結婚しても問題ないってこと……?!」
三人とも、何を呟いているのかは、よく聞こえなかったが……
おそらく、俺に対する呪詛や恨み言だろうな。
そりゃあそうだ、彼女らは
「――とりあえず、顔を上げてくれませんか? グロウさんがそれでは、話しずらいです」
「あ、ああ……」
俺は恐る恐る顔を上げると……三人の口角が上がっていた。
え? てっきり軽蔑したり、怒ったりしていると思ったんだが……どうして笑ってるんだ?
すると、ラミリアが何か思いついたように顔を明るくした。
「決めたわ! 私は、あんたのこと――絶対に許さない」
「です……よね」
そうだよな、この程度の贖罪じゃ許してくれる訳ないよな。
果たして、彼女から要求されるのは何だろうか?
金か? 名誉か? ……はたまた俺の首か?
「――だから、罰として私の追放を取り消しなさいっ!」
「……へ?」
一瞬、言っている言葉の意味が理解できなかった。
「追放……? 取り消し?」
「ええそうよ! 当たり前じゃない! ……どうせ、あんたのことだから『勇者じゃない俺には価値がない』だとか、『偽ってきた罰』とか考えてるんでしょう?」
「っ?! そ、それはそうだけど……違うのか?」
「――違うに決まってるじゃないですかっ!!!」
声を荒げたのは……あのリシアだった。
いつも冷たく、どこか無機質なリシアが声を荒げるところを見るのは、これが初めてだった。
「確かにグロウさんが勇者様でなければ、私たちは出会うことはなかったでしょう……ですがっ! 私たちが今、グロウさんと共に旅をしているのは、
「そうですよ! リシアちゃんの言う通りです! センパイじゃなかったら、一緒に旅なんてしてません!」
「み、みんな……」
てっきり、俺が勇者だから一緒に旅をしてくれているものだと、勘違いしていた。
けれど……彼女らは、俺という人間と旅をしたいと本当に思ってくれていたのだ。
「結局、私たちにとって、あんたが勇者か勇者じゃないか、なんて大した問題じゃないのよ……というか、寧ろ……」
すると、ラミリアの頬はみるみると赤く染まっていく。
「寧ろ?」
「――な、なんでもないわ! とにかく、私たちはこれからも、あんたと一緒に旅を続けるつもりだわ! もしかして……あんたは嫌かしら?」
「まさか! 嫌な訳ないだろ!」
「じゃあ、決まりね! 改めて、これからもよろしく頼むわよ? グロウ!」
「私からも、よろしくお願いしますね? セーンパイっ!」
「私も、これからも末長く、よろしくお願いします」
ああ、俺は本当に最高の仲間達に恵まれた。
こんな最悪の嘘を、許してくれた上に、一緒に戦い続けてくれるだなんて……。
「三人とも、ありがとう……! 俺からも、よろしく!」
俺たち、勇者パーティは新たなスタートを切るのであった。
「……明日の朝……早速……」
そして、誰かの、そんな呟きが聞こえたような気がした。
《あとがき》
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