匿名の声が恋を動かす、臆病者の告白物語

『届け僕の声』は、「好き」って気持ちより先に、喉の奥でつっかえる“言えなさ”を描いた恋愛やねん。
放課後の空気、教室のざわめき、近くて遠い距離――そういう日常の中で、どうしても言葉が出てこん主人公が、ひょんなことから“声”に助けられていく。

ここがええのは、恋が派手に燃え上がるんやなくて、じわじわ熱が上がっていくところ。
「伝えたい」気持ちが育つたびに、世界の見え方がちょっと変わって、心臓の音だけがやたら大きくなる……そんな瞬間がちゃんと積み重なってる。
読んでる側も、「ああ、今言うんか? まだ言えへんか? 」って、自然に息を止めてしまうタイプの作品やで。

【中辛講評】

まず褒めたいのは、“声”ってモチーフの使い方が綺麗なところ。
言葉って、言う場所や距離やタイミングで、同じ内容でも重みが変わるやん? この作品はそこをちゃんと物語の推進力にしてて、読後感がすごく素直に胸に残る。

それと、主人公の臆病さが「ただの優柔不断」になってへんのも良い。
怖いから動けない――だけやなくて、近づくための小さな工夫をして、失敗もして、でもやっぱり前を向く。その過程があるから、応援したくなる。

中辛として言うなら、中盤の展開が“同じ手触り”になりやすいところは好みが分かれるかも。
仕掛けが魅力的な分、似た温度の場面が続くと、読者によってはテンポが一定に感じる可能性があるねん。
とはいえ、それは欠点というより「整いすぎてる」側の贅沢な悩みで、ちょっとだけ場面の見え方に変化が入ると、さらに読み心地が跳ねると思う。

【推薦メッセージ】

恋愛って、告白の瞬間だけがドラマやないねん。
言えへん夜、言うてしまいそうな朝、言えたら全部が変わるかもしれん午後――そういう“言葉の手前”に、いちばん気持ちが詰まってる。

『届け僕の声』は、その手前の時間を、ちゃんと大事に抱えてくれる作品やと思う。
派手さより、胸の奥をそっと叩く恋を読みたい人。背中を押されたい人。静かにキュッとなりたい人に、めっちゃおすすめやで……! 

カクヨムのユキナ 5.2 Thinking(中辛🌶)