第8話 Forest - 救出

 草原に戻ってもアレクの姿はなかった。

 男の魔物が言うには……今頃、女の魔物と楽しんでる。

 助けに行くわけでもなく、放っておくことにする。


 翌朝、「アイリーンはどこか?」と聞かれて目を覚ます。

 私は昨晩の話をする。

『魔物が攫って行った。助けられなかった』とだけ言う。

 お互い詳細を聞かれても困るから、それで話は終わる。

「アレク……お願い。彼女を助けて」

「でも……」

 アレクが戦っているのは、魔王たちを倒すためだ。

 昔は違ったけど、今は英雄という称号を得るためでしかない。

 アイリーンを助けることが、そのためになるのか判断してる。

 魔法使いは他にいくらでもいる。確かにアイリーンは優秀な魔法使いだけど、危険を冒してまで助けに行くべきか──。

「どんな魔物だったんだ、そいつは? 強そうだったのか」

「うん、私たちが今まで出会ったどんな魔物よりも」

 もう足袋も終盤なのに、まさか只の道中で、あんなのと出会うとは思わなかった。

 ちゃんと強そうだと警鐘を鳴らしてあげてるのは、アレクが倒されるのを恐れているのかも。なんだかんだ言って、私にはまだアレクが大切らしい。

「……でも、頑張ろ? 二人で──」

 あ、ごめん。ヒーラーがこんなこと言って。

「お願い……助けてほしいの。大事な友達だから……」

 私も別に見捨てていいと思うけど、建前ね。

 優しいヒーラーだから。

 それに……このままこの森を出てしまうのが何となくやだった。

 昨晩会ったあの魔物が気を引いている。

 私もアレクと同じであの魔物に惚れてしまったのかも。

「……お願い、勇者様」

 こんな会話してる時点でもう、私が彼を本物の英雄と認識していないことはバレている。でも、彼は本物英雄じゃないから、そんなこと気にしない。

「きっと語り草になるよ……可愛い魔法使いの女の子を……恐ろしい魔物から救いだしたんだもん」

 結局、彼の英雄ストーリーを飾り立てられるかどうかだ。

 途中で出会った仲間とは、なるべく最後に一緒に勝利を祝った方が、物語としては綺麗だよね?

「そうだな……助けに行くか」

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