第7話 Forest - 対話

「gah……」

 魔物はアイリーンの身体を持ったまま、木の幹に腰を下ろした。

 なんだろう? 休憩?

 傍らに置かれたアイリーンは髪が乱れていて顔が見えない。腕を伸ばしたまま力なく倒れている。時折身体がピクリと痙攣する。

「……gru?」

 魔物の目が私を見る。

 赤い目。黒目がないから、感情は分からない。

 魔物だって目を見れば何となく感情は分かるのに。

「安心して、今は君を襲わないから」

 ──喋った。大きい体で人間よりも低い声だった。

「驚いたかい? 仲間は喋れない人が多いけど、僕は喋れる」

 自分たちの体に合った言語ではないんだろう。喋りにくそうだった。

「悪いけど、この子は返せない。あと五分もしたら、僕は君を襲ってしまうだろうから早く逃げるといい」

 返せない……アイリーンは住処にでも連れていかれるんだろう。

 でも無理して取り返せるとは思えない……私には。

 アレクにも微妙かもしれない。

 今までいろんな魔物に出会って来た。

 でも、コイツは別次元の強さを持ってる気がする。

 ──頼るように木の幹に当てていた手を離す。

「……ありがとう」

「礼を……言われるようなことはしてないけど」

「私のこと逃がしてくれる」

「ああ、それはまあ……そういう気分だったから」

「それに──」

 さっきからアイリーンはピクリとも動いてない。

 気を失ってる? 死んでは似ないと思う。

 まあ、もう聞こえてもいいや。

「そのくそビッチを犯してくれありがとう」

「……仲が悪かったんだ。どの世界でも……たまに女同士の争いは恐ろしいよね」

 この森じゃない、どこかの文明を思っているみたいだった。

 人の言葉を離せる当たり、人の世界で暮らしたことがあるのかも。

 あの巨体じゃ馴染みづらそうだけど。

「あの剣士は、今頃妹が遊んであげてると思うよ」

 アレクの存在も知ってるらしい。

 男一人と女二人、女二人は仲が悪い……私たち三人の中を察したのかも。

 彼の言葉で私は……なぜ彼が夜の森へと入っていったのか、なぜわざわざこの森を通ろうとしたのか……察してしまった。

「クソだね。英雄って」

「それは……英雄によると思うよ。まあ男は……大抵くそかもしれないね」

 何だか人間でもなく、魔物と一番気持ちが通じてしまっている。

「お……そろそろ時間だ」

 彼の視線の先を追うと、あの太い棒が逆立って星空を向いている。

「抑えている自信はないから、逃げてほしい」

 そうだ、この人はアイリーンを犯した人だ。分かり合えた気でいたけど。

「あなたが……一番クソだ」

「そうだね、きっとそうだ」

 それがあの晩の、彼との会話。

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