夏休み〜夏祭り〜編

第41話 ファストフード店の男子高校生

大学見学から数日経ったある日、奏雨と律はファストフード店でハンバーガーを食べていた。店内は明るく賑やかで、他の客も一緒に来た人と会話を楽しみながらハンバーガーを頬張ったり、カウンター席ではサラリーマンや大学生らしき人々がイヤホンをしてPCを広げて作業をしていた。


おぼんの上には、ハンバーガー2個とLサイズのポテト、そして紙コップに入った無料の水が無造作に置かれている。さすが育ち盛りの男子高校生なだけあって、ハンバーガーを2つペロリと平らげると、律は残りのポテトに手を伸ばした。律が無心でポテトを食べているのを目の前に、奏雨は手をおしぼりで拭いてスマートフォンに手を伸ばす。ポチポチと文字を打っている奏雨は真剣な表情をしていたが、律は惰性でポテトを頬張っているのでぼんやりとそれを見ていた。


そうしてようやく見せられた画面には


「星宮に夏祭りに誘われた。」


と書かれていた。それを見た律は、奏雨のスマートフォンの右下にあるマイクボタンを押し、


「ふぅーん。いってらっしゃい。」


と気だるげに吹き込んだ。奏雨はテキスト化されたのを見て、またポチポチと文字を打つ。そこには


「悩んでる。」


とだけ書かれていた。律は眉間にシワを寄せて、心底何に悩んでいるのか理解できなさそうに、自分が知っている簡単な手話で「何を?」と返した。再びポチポチと文字を打ち込む奏雨を見ながら、ポテトを頬張る。


水を飲み始めていたとき、奏雨に画面を見せられた。


「文化祭の日、演劇途中で出てったとき、あのあと星宮のこと抱き締めちゃって…」


そこに書かれている突飛な内容に律は飲み物が気管に入って、ゴホゴホと激しく咳き込んでしまう。奏雨は驚いて心配そうに身を乗り出して慌てて律の様子を見た。


そして律は、驚きのあまり声のボリュームが大きくなり、荒々しい言い方でマイクに吹き込んだ。


「なに?お前ら付き合ってたの!?知らないんだけど!」


それを見て奏雨は、小さくゆっくりと首を横に振る。

律はさっきよりも眉を潜めて「はぁ?」とも言いたげな顔をする。


「付き合ってないのにハグしたのかよ。お前やばいな。」


そう言われると、奏雨は肩をすくめて明らかに落ち込んだ。

背中が丸くなり、見るからにしょげている。


「なに?好きじゃないの?」と律が問いただす。


奏雨は


「好き。恋愛としてちゃんと好き。でも」


とだけ書いた画面を律に見せる。

それを見た律は、まっすぐ奏雨の目を見て、少し真剣な面持ちで、自分の耳を人差し指で指差しながら聞いた。


「なに?耳のこと?」


奏雨は目線を斜め下にそらして、諦めて悟ったかのような顔をして頷いた。

奏雨にとって、この問題は常に影のように付きまとっていた。

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