第30話 カフェのひとときは魔法の相談
文化祭から数日後、季節はすっかりと夏になっていた。
強い日差しが降り注ぎ、肌を焦がすような暑さが続く。
さららは、日焼けをしないようにと白い日傘をさしながら、一人、ミモリが営む古民家カフェの前に立っていた。蝉の声がジリジリと耳に響く。
古びた木の扉を開けると、ひんやりとした空気が肌を包み込み、外のうだるような暑さを改めて実感する。クーラーの恩恵だろう。
「いらっしゃいませ」
奥から、ミモリの優しくもはっきりとした声が聞こえてくる。
さららは、店内へ足を踏み入れながら「こんにちは……」と挨拶を返した。
ミモリは、カウンターから顔を出し、さららの姿を認めると、にこやかに問いかける。
「あら!さららちゃん!今日は一人?」
さららは、はにかむように
「えへへ、一人です。」
と答えた。そのとき、彼女のストレートの長い髪を耳にかける仕草と共に、ミモリから以前もらったブレスレットが光に反射してキラリと輝いた。
察しの良いミモリは、さららの表情から何かを読み取ったのだろう。優しく問いかけた。
「奥で、話聞こうか?」
さららは、その言葉に少し嬉しそうに頷いた。
ミモリは、厨房で背を向けながらドリンクを作っている女性に声をかけた。
その女性は、ポニーテールを揺らし、ハツラツとした印象だ。
「
声に呼ばれて、その女性――小春はくるりと振り返る。
彼女の表情は、にこやかだ。
「ごめん、奥の部屋でお話してくる!旦那も呼んでくるけど、ここ任せちゃっていい?」
ミモリの言葉に、小春は快活な笑顔で応じた。
「大丈夫ですよ〜ごゆっくり!」
ミモリはさららを奥の部屋へと案内しながら、説明してくれた。
「最近アルバイト雇ったんだよね。魔法にも理解ある子で助かってるの。」
以前通された、あの薄暗く神秘的な空間。
壁際には、見たこともない奇妙な形をした瓶や、不思議な文様の描かれた道具、生命力に満ちた珍しい植物などが所狭しと並べられている。
以前訪れた時よりも、さらに新しい道具や植物が増えているようだった。さららは、以前座ったのと同じソファに腰を下ろす。
やがて、ミモリが目の前に出してくれたのは、グラスの縁に汗をかいたアイスティーだった。透明な氷がカランと音を立てる。
さららは、グラスを手に取り、一口飲む。口の中に広がる清涼感と、上品な甘さに、思わず目を輝かせた。
ミモリは、その様子を見て微笑みながら言った。
「最近暑くなってきたからね〜。染みるでしょ?」
さららは、コクコクと頷きながら、もう一口アイスティーを口に運んだ。
ミモリは、おちゃめな笑顔を浮かべ、本題に切り込もうとする。
「で、今日はどうしたの?彼氏となんかあった?笑」
さららは、まさかの質問に、慌てて否定した。
「か、彼氏!?私、彼氏いませんよ!?」
彼女の顔に、驚きと戸惑いが浮かぶ。
「えっ!?前、一緒にこの部屋来てくれた男の子、彼氏じゃないの!?」
ミモリは、心底驚いたように声を上げた。
さららは、誤解を解こうと必死に弁明する。
「違います!あれは仲の良いクラスメイト、友だちです!」
その言葉に、ミモリは顔を青くした。自分の失言に気づいたのだろう。
口を手で塞ぎ、焦ったように言った。
「も、もしかして……魔法のこととか、あの男の子知らなかった?私てっきり知ってるものだと思って色々話しちゃったんだけど……。」
さららは、ミモリの慌てぶりに、落ち着いて答えた。
「大丈夫です。魔法、知ってます。見たこともあるし、巻き込まれてもいるので……。」
それを聞いて、ミモリは安堵の表情を浮かべ、ホット胸を撫で下ろした。
そして、顔を上げてさららに尋ねる。
「じゃあ、またなにか巻き込まれちゃった?」
さららは、コクりと頷くと、文化祭で起こった出来事を、ミモリに話し始めた。劇場を包んだあの光、時が止まった感覚、そして臣と交わした会話、自身の魔法の適性が夜に高まるという事実……。
一つ一つ言葉を選びながら、記憶の扉を開いていった。
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