第六夜 待ち合わせの場所




「何時に〇〇に待ち合わせね。」なんて、友達なんかと待ち合わせ致しますよね。


時間前に来られる方もいらっしゃいますし、ギリギリで来られる方も、また遅刻される方も……。


あなたは、何分まで待つ事が出来ますか?


また、何分までなら、我慢出来ますか?


遅れた方は「いやー、ごめんごめん」で済みますけれど、待たされた方は……ねぇ。


今宵は、そんな待ち合わせ場所に関わる、お話でございます。


では、Midnight・Bar、開店とさせて頂きます。




ー深夜2時から開店するバーが存在するという。


その名をMidnight・Bar。


ここでは、様々な方達の物語が始まるのです。




ーカランカランと、扉の開く音がして、一人の女が店に入って来た。


女は、黒いドレス姿に黒いヒールを履き、店内をキョロキョロと見渡すと、店の奥のテーブルへと向かった。


ほとんどの客は、カウンターへと来るのだが、珍しいものだと冴譚は、思った。


薄暗い店の奥のテーブルに静かに向かうと、冴譚は、女に声を掛ける。


「いらっしゃいませ。御注文をお伺い致します。」


女は、冴譚の顔をじっと見ていたが、しばらくすると、こう言った。


「ここのマスター、代わりましたの?」


「いいえ。」


冴譚が応えると、女は、片手で頭を押さえ、少し考え込むでいた。


「お店の名前……変わりましたか?」


そう尋ねる女に、冴譚は、フッと口元に笑みを浮かべた。


「いいえ。」


それを聞き、女は、眉を顰める。


「変ね……。確か、このお店の名前は……ミゼラブルだったような……。」


「ミゼラブル……ですか?」


クスッと笑う冴譚に、女も笑う。


「お店の名前に、ミゼラブルはないわよね。」


「そう……ですね。」


静かに、冴譚は、そう言った。


「ごめんなさい、私……。待ち合わせをしているの。確か、ここだと思ったのだけれど、勘違いだったかしら?とても、大切な人と会う約束をしていたのだけれど……。誰だったのかしら……?」


考え込む女に、冴譚は、口元に笑みを浮かべ、こう言った。


「では、私が御客様に合った、お酒を作って参りますね。」


そう言うと、カウンターに向かい、中に入ると、冴譚は、カクテルを作り出す。


カクテルを作り終えた冴譚は、カクテルグラスを銀色のトレイに乗せ、女の元へ運ぶ。


「お待たせ致しました。」


「これは……何というカクテルかしら?」


「そうですね……。思い出のミゼラブル……とでも、名付けましょうか?」


「思い出のミゼラブル……?」


冴譚は、真っ赤なカクテルのグラスをチーンと指で弾く。


「ミゼラブルという店は、ございましたよ。この場所に。しかし、それは、かなり以前の事です。そうですね……もう100年前ぐらいになりますか。」


「100年?」


眉を寄せ、女は冴譚を見つめる。


冴譚は、ゆっくり女に顔を近付ける。


「まだ、待ち合わせをするつもりですか?無駄だと思いますけれど。」


「えっ?」


「失礼ですが100年も経っていれば、相手の方は、もう、お亡くなりになられているでしょう。勿論……あなたも。」


それを聞き、全てを思い出したように、女は、立ち上がった。


「そうだわ。私と結婚の約束をしていたのに、あの人は別の人と……。私、ずっと、待っていたのに……ここで、待っていたのに……!」


女は、泣きながら、店を出ようとして、壁に掛けてある鏡の前で、足を止めた。


「私……。」


鏡に映った、その姿は……。




首にロープを巻き、首を吊ってる姿だった。


長い間、そのままの状態だったのか、首が長く伸び、舌をダラリと垂らしている。


「ああ……!!」


女は、悲痛な叫びを上げると、フッと姿を消した。


テーブルに運んだカクテルグラスを手に持ち、冴譚は、カウンターに向かう。


「死んでも尚、裏切った男を待つ……なんて、ミゼラブル(悲惨)。」


カクテルグラスに入ったカクテルをグイッと飲み干すと、冴譚は、ペロリと、唇を舐める。


「しかし、この店も、あんな御客様ばかりですね。ちっとも、儲かりませんね。ほんと、ミゼラブル。」


冴譚は、肩を竦め、クスッと笑った。




ー夜空に、三日月が輝く夜だった。


Midnight・Barの夜は、まだまだ続く。





ー第六夜 待ち合わせの場所 [完]ー


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