第七夜 真夏のサンタクロース




クリスマス。


皆様は、毎年クリスマスのお祝いはなされていますか?


サンタクロースを信じていた子供の頃、クリスマスの日に枕元に、大きな靴下なんか置いて、どんなプレゼントが貰えるのか、ワクワクして眠ったのではないでしょうか?


さて、12月24日はクリスマス・イヴ、25日は、クリスマスというのは、皆様も御存知かと思われますが、いったい、どちらでお祝いをするとよろしいのでしょうね。


24日は、キリストの生まれる前夜、25日は降誕をお祝いする日です。


と言うことは、24日の夜から25日の夜までが本当のクリスマスのお祝いの日なのです。


そんなクリスマスに欠かせないのがサンタクロース。


今宵は、そんなサンタクロースのお話でございます。


さぁ……その扉を開けて御覧なさい。





深夜2時から開店するMidnight・Bar。


ここには、いろんな客と物語があるという。


ー七月中旬。


夜になり、日が沈んだとはいえ、昼間の熱気が残っているのか、ムンとする暑さを感じる。


何時ものように、カウンターの中でグラスを磨いていた冴譚は、カランカランと扉の開く音がして、そちらに目線を向けた。


「メリークリスマース!!」


そう言って、中に入ってきたのは、真っ赤な衣装に、白い髭のサンタクロース。


肩には、プレゼントの入った白い袋を下げている。


一瞬、きょとんとした顔で見つめていたが冴譚は、すぐに、無表情に戻る。


「いらっしゃいませ。」


冷静に、そう言った冴譚の元に、サンタクロースは、ホッホッホッと笑いながら、やって来る。


コスプレか?


それとも、頭のおなしな奴か?


そんな事を思っている冴譚に、サンタクロースは、こう言った。


「私は、本物のサンタクロースだよ。」


優しい笑顔で、ホッホッホッと声を上げるサンタクロース。


「真夏にも、お仕事ですか?サンタクロースさん。」


フッと口元に笑みを浮かべ、そう言った冴譚に、サンタクロースは言う。


「今夜は、特別。君にだけ、プレゼントを持って来たんだよ。」


「プレゼント?私に……ですか?」


眉を寄せ見つめる冴譚に、サンタクロースは、白い袋から鏡を取り出す。


かなり古い鏡のようだが、その鏡は、とても美しく、魅力的だ。


鏡に、魅力的という言葉を使うのは、変な話だが……まるで、女性のような気がした。


サンタクロースは、ホッホッホッと声を上げ笑うと、こう言った。


「この鏡が君の所へ行きたいというので、連れて来たんだよ。」


「鏡が……?」


「まるで、恋人に会いたいような…そんな感じだったよ。」


冴譚は、鏡を手に取ると、優しく微笑む。


それを見て、サンタクロースは、店の扉の方へ向かい、扉を開けて出て行った。




ー柱時計がボーンボーンと2時を知らせる。


その音に、ハッと目を覚ました冴譚は、店内を見渡す。


いつの間にか、カウンターに腰掛け、眠っていたようだ。


冴譚は、フッと口元に笑みを浮かべる。


「私とした事が……居眠りしてたのですね。」


呟き、壁に掛けてある鏡を見つめる。


そして、静かに、そちらに向かう。


「あなたと出会った時の夢を見ました。」


鏡に、そっと触れ、冴譚は、優しく撫でる。


「私の所に来てくれて、ありがとうございます。何だか、私も……あなたに会いたかったような気がします。」


鏡が店内の明かりで、キラリと光った。


まるで、冴譚の言葉に、喜んでいるようだった。


「今宵は、何だか、あなたとお話ししていたい気分です。よろしいでしょうか?」


冴譚の言葉に応えるように、鏡がカタンと音を立てた。


「ありがとうございます。では、今宵は……。」


冴譚は、扉に向かうと静かに開け、扉のノブに下げた札をクルリと、ひっくり返した。


「CLOSE」


で、ございます。





Midnight・Barの夜は、まだまだ続く。






ー第七夜 真夏のサンタクロース [完]ー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る