飛車落ち

「さて、お前さんはファミリーウチの重要人物になった。だから護衛を雇え。なんなら紹介してやる。」


 開口一番、フォールドの兄貴にそう言われた。

 実のところその認識はあって、昨日街へ向かったのも奴隷商とかないかなと思ってのことだ。


 結論、奴隷商はあるにはあるが、全然違う区画にあるらしい。

 それよりも傭兵ギルドで常駐の護衛を雇った方が信用できるそうな。


 とはいえ流石にそこまでの資金がないことを話したら、孤児院上がりの子を格安で紹介してくれることになった。

 

「スリー・ポーカーのアンテだ。他にプレイとペアプラが居る。ランクはC。全員前衛職だ。」

たつです。しばらく護衛お願いします。Cランクって高いんですか?」

「いや、下から3番目だよ。まだ駆け出しさ。だが守秘義務に関しては叩き込まれた。」


 ふーむ。今ひとつ信用できないが値段相応か。ないよりはマシと思っとこう。

 それにこちらのへきを考慮してくれたのか猫・狼・狐と全員ケモ耳(ケモ度1)である。雄だが。

 

 ちなみに今はカークの所からは引き払って孤児院の空いてる部屋を使わせて貰っている。

 家賃は食料の物納。

 どこかの倉庫を一日だけ借りて、そこから運んでもらうことで仕入れ元をわかりにくくしているが、正直もうバレてるかもしれない。

 それでもケモ耳から離れたところに居たくなかったのだ。

 目の保養大事。


 ちなみにカークのにいちゃんは隊商を率いて次のルートセールスに出かけたようだ。


 

 

 孤児院の隣では突貫で製紙工場を建てている。

 もっと拓けていて、川も近い場所に立てても良いのだが、人の動線や物の配置などを最適化するための試験棟らしい。

 そこへ商会・ファミリーともに「これはデカいシノギになる。」といって資本と人員を大量投入しているのだ。


 紙漉きキットの説明書には製紙に向いた植物の一覧が記載されていたが、こちらの世界では知られていないので、繊維質な植物を植樹するプロジェクトも始まっている。

 

「なんか大事になったなぁ。」


 ボーッと建築の様子を見ながら呟くと護衛のアンテが反応した。


「いや、大事にならない方がおかしいだろ……。ファミリー内部ウチんとこの力関係が一気に変わったんだぞ?」

 

 そんなことは分かってる。だが特許もない世界で紙の製法なんてすぐパクられるだろう。

 だからそんなに危惧していないのだ。


「真似されて、ウチ独自の製法ものだって言われたらおしまいの事業だよ。それよりも有利なうちに製法を広めた方がよっぽど儲けになるよ。」

 

 そんな問題かなと首をひねるアンテをよそに、再びボケーッと建築の様子を見ていたら人がこっちに来るのが見えた。見たことがある顔だ。あれはオーショウ商会側の……


「ヒシヤさん……だったっけ。購買のトップがなんだろう。俺みたいな見た目子供の相手でもちゃんと商売してくれる良い人だけど……」


 独り言が聞こえたのか、スリー・ポーカーの面々が人物を確認するとあわてて姿勢を正し、出迎えの用意をし始めた。



 

「生活必需品……ですか?」

「そう。石鹸の様な贅沢品も取り扱っているらしいと聞いたんでね。」

「そりゃ、扱いますけど……手ガッサガサになりますよ?」

「?……汚れを落とすだけだろう?」

「俺の扱う石鹸は手の脂ごと落とすんです。刃物の手入れに塗る脂ごと除去したらすぐ錆びるのと同じ様な事が起きます。」

「むぅ……。」


 もちろん、俺が言ってるのは通常の石鹸ではない。工業用の石鹸だ。ド派手な色した粉石鹸。

 機械油はもとよりマジで皮脂ごと落とすヤツだから、潤滑油の必要な機械が出回っていない今の時代ではまだ需要がないはずなのだ。

 

「では先日の"かろりーなかま"はどうかな?」

「あれは俺が非常事態だったから譲って貰ったヤツなのでそんなポンポン出せるものじゃないです。」


 包装がオーバーテクノロジーってのもあるしな。

 他にも改善したいのはトイレ、取水水回り、食料事情、衣料と沢山あるが、俺が把握している限りフォールドの兄貴の所だけでは規模が足りないので保留中だ。

 そうすると、改善のヒントになるものを出した方が良さげかな……

 

 であれば、これだ。


「畑の肥料なんかどうです?」

「ひりょう?種蒔きゃ勝手に生えるもんだろ?」

「(そっからかい。)植物も土を食べて生きてるんですよ。土を肥えさせないと作物が大きくなりません。」

「ふむ。もっと速効性のあるものが欲しいんだが。」

「応用といきなりやろうとしても無駄になるだけです。まずは基礎を固めないと。」

「……君の認識と我々の要求とはかなり差があるようだな。」


 当たり前だ。こちらは文明発展のフローテックツリーを知っている。

 鉄すら満足に作れていないのであれば加工技術だって鍛造くらいしかないだろう。

 そんなところにオーバーテクノロジーなモノぶち込んだって満足に使えず接収されておしまいの未来しか見えない。

 非常事態だったとは言えカロリー仲間を販売したのだって失敗したと思ってるくらいなんだ。

 そうそう知識をくれてやる必要は無い。対価も出して貰ってないしな。

 

 第一、ヒシヤこいつの態度が気に食わない。

 (見た目)子供相手だからって上から目線甚だしい奴に美味しいトコくれてやるものか。

 スリー・ポーカーに目で合図をして即刻退去してもらうことにしよう。


 


「しかし良かったのかい?ヒシヤさんと言ったらオーショウ商会の重鎮副会長だ。無碍にすると後が怖いぞ。」

「目先の利益にしか目を向けられない人は商売続かないよ。でも報復があるかもしれないから監視の強化はお願いします。」

「……ほんとに子供とは思えない思考してるな。」


 中身46やぞ。


 さて。先程の会話で挙げた畑の肥料。これを孤児院の畑で実証することにした。

 スラム側にある、領主や代官の知らない……いわゆる隠し畑というやつだ。

 購入したのは鶏糞の肥料と、苗である。

 商品が到着するまでは畑を耕して空気を土にすき込んで貰った。


 購入した苗は現代でもチートと名高いヒルガオ科植物、甘藷ことサツマイモである。

 色は紫で下手に甘いと戦争になりかねないので品種的には加工用ムラサキマサリを選んだのだが……だめだ。コイツも意外と甘いらしい。

 

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