飛車成り

 見せしめも兼ねての物理的脅しが来たのは4日後だった。

 とはいえこちらの拠点はファミリーの敷地。なので散策に出てた俺を犯罪にならない程度の圧をかけるくらいしか出来ず、護衛に阻まれ退散していった。


 子供相手に大人の集団で掛かってきておいてあっさり全滅。簡単に返り討ちに遭うってどんだけの恥よ。


 はぁ。大人しくしていればアルカリ競合商品の販売控えたのに。

 後先考えないで強権チラつかせる方法しか頭に無いのかねー。


 ポーカ・ファミリーとヒシヤのラインはこれで消えたわけで、と。

 行商ルートセールスのカークじゃ補填できないから俺の所に苛性ソーダアルカリの発注が増えそうだ。

 

 うーん。ここは売り時なんだろうけど、こないだ鶏糞肥料買ったせいで種銭が無いんだよなぁ。

 しかもまだ届いてないし。今日着の予定なのに。


 ちょっと外の空気吸うか。

 


 

 ……うむ。世間様を甘く見ていたようだ。

 ドアキャン待ち伏せ食らってあっという間に簀巻きにされてしまった。


 とはいえ相手の準備も整っていなかったのかすぐに簀巻きは解かれ、見覚えのある倉庫で椅子に括り付けられた。開けっ放しの扉から日光が降り注いでいる。

 こりゃ雑な誘拐だなー。身代金要求先誰になるのかなー。


「身代金もクソもあるか。分かってるだろ、お前の販路をそっくり寄越すんだ。そうすれば解放してやらんでもない。」


 ぅゎぁ直球。

 

「ヒシヤの旦那だーんな子供ガキ相手にその手の脅迫って恥ずかしくない?」

「うるさいっ。俺の言うことを聞かないからこうなってるんだ。早く吐けっ!」

 

 大の大人がテンパってるなぁ。上がり目無しチョンボのくせに。


「吐いても良いけど目先の利益しか見えない馬鹿には使いこなせないと思うよ。」

「ガキがッ!」


 殴られて括られている椅子ごと吹っ飛ばされる。

 ……思ったより痛みを感じないな。筋肉痛はあんなに痛かったのに暴力には強いってどんな体だよ。


 ヒシヤが非力なのか、自分が頑丈なのか、馬乗りになって殴られているのにそんなに痛くないのでたった今来た反撃のチャンスを待つ。

 

「ふうぅ、クソッ。素手では口を割らんか。おい、薪持ってこい。できるだけささくれているヤツをな。」


 そういって立ち上がり、休憩しようと屈んだ瞬間。

 頭で鳴っていた配送チャイムに意識を移し、ヒシヤヤツの頭上に転送されるよう配送の確定をする。


 もちろん同梱の苗は地上に置いて、本命だけを頭上に置いたワケだが……


「うわくっさ。」

 

 肥料こと鶏糞の1パレット分である。臭くないわけが無い。

 



 

 騒ぎを聞いて駆けつけたスリー・ポーカーの面々が縛り紐を解いてくれた。

 

 ヒシヤはバック・トゥ・ザ・フューチャーの悪役みたいなことになっている。

 とはいえホーム・アローンの2人組よりはマシなので大丈夫だろう。

 自社の倉庫で騒ぎが起きたということで、商会の人間が(嫌々)救助したものの、首に怪我を負ったらしい。

 踏んだり蹴ったりだな、糞だけに。


 でもって当然この騒ぎはオーショウの耳に届き、ヒシヤは逮捕&放逐。

 実行犯である商会の暗部……というかヒシヤの私兵もまとめて収監ドナドナの決着となった。


 そしてヒシヤの代わりに副会長となったリュオーを紹介され、二度と起きないよう約束して貰って解散する。


 

 

 でもって拳固ゲンコである。

 フォールドの兄貴から脳天に一撃。

 護衛失敗したスリー・ポーカーも一発ずつ。


「大人しくしろッつったよな?」

「子供が大人しかったら気持ち悪いじゃないか。」

「おめーは別だ。」

 

 中身46だからね。

 

 

 ファミリー総出で倉庫から肥料と苗を運び出す。

 早速畑に植えるのだそうで、俺は苗のケースについてきた説明書を読む仕事に従事することとなった。

 

「えーと。低めの畝に……活着しやすいよう斜めに植えて……あれ?コイツ肥料与えすぎると茎だけ生長して芋付かんのか。肥料買い損だったかな。」

「そのための予備として、そこにあるキモいまだら模様の芋も植えるんだろ?」

「うん。処理方法間違えると毒に当たるから控えておいたけどね。」

「なんつったっけ?名前が物騒なやつ。デス……デス……」

破壊者デストロイヤーだね。そっちは別名で、グラウンドペチカってのが本来の名前だってさ。(※実在)」

「……本当に食えるのか?」

「市場で売れなさそうなヤツ(失礼)を選んだのは確かだけど、ちゃんと食べれるよ。気になるなら皮むけば良いし。」

 

 まあ、食えるなら良いかと結論が出て植えていくと、先日挨拶したリュオーがやってきた。

 なんでも畑で育てる作物に興味があるらしい。

 

「実物無いのに売れると思わないで欲しいな。」

「いえ、その植え方から面白いと思いましてね。」


 サツマイモムラサキマサリか。たしかに葉っぱ千切って増やしてるから簡単に見えるんだろうな。

 だが断る。

 そして拳固。

 


 代わりに別の作物を紹介することにした。キッチリ前金で。

 これはサツマイモの説明書にコンパニオンプランツとして紹介されていたのだ。

 日本人には縁の深い大豆こと枝豆である。


 ……でも連作障害激しくなかったっけアレ。

 回避方法が説明書に書いてあるといいんだけどな。

 

 品種はサッポロミドリなるものを選出。

 理由?安かったから……。

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