ポーカ・ファミリー

 ボソボソした黒パンとうっすいスープの朝食を採って宿を出た。

 で、現在、チンピラさんに囲まれ中。


「おう、此処がスラム俺等のシマだって分かって来てんのか?」

「知ってたら来ないよ。見逃してくれたら助かるんだけど……。」

「バァカか手前てめぇ。縄張りに入って無事で済ますファミリーが居るわけねえだろ。」

 

 まあそうだろうなと思いつつ、手持ちの現金だけで済めば良いかなと考えていたら向こうさんに援軍が来た。


「レイズ、コール。何やってるんだ?」

「フォールドの兄貴。見ねえ顔がシマをウロチョロしてたんで、絞めてまさぁ。」

「ふぅん?……コイツは昨日オーショウさんのとこに出入りしてた荷物持ちだな。新入りみたいだから放してルールを教えてやれ。」


 カークの所はチンピラさんにも知られているらしい。

 それとルールを教えると言っても殴る蹴るではなく地面に絵を描きながら区画の説明をしてくれた。

 かなり組織として纏まっているようだ。こういうところに喧嘩は売らんようにしないと。


 

 教えてもらった手数料代わりに携帯保存食を渡すと、ガキのくせに生意気だとか、そんなもんは孤児院に寄付しろと怒られた。

 彼らのファミリーの大半がそこ出身らしい。

 実地で案内してもらって孤児院に着くと、ケモ耳が居た。

 内心歓喜しつつ、街中で見なかったことを聞いたら、あまり耳や尻尾を曝すのは良くないという風潮のため……らしい。

 なんともったいない。


 で、寄付をするんだが、彼らポーカの名を冠した孤児院は例に漏れず切り詰めた生活を送っているようで、どんなものでもありがたいのだそうな。

 なるほど。であれば……


「ちょっと倉庫を使わせて貰いたいんですよ。それと荷運びの人員。お金は無いけど食料なら出せますよ。」


 職員からすぐに了承を貰えたので食料の希望を聞くと、そろって肉。

 安い肉ということで鶏ムネ肉でいいかと考え、倉庫は明日から借りる旨伝えて宿へ戻ることにした。


 

「キロ500とは。業務用って安いんだな……。」


 よくスーパーで売ってる国産鶏ムネ肉はグラム1円前後というイメージがあったのだが、その半額である。

 海外産に至ってはその更に半額だった。

 

 ならばカーク達からの注文のついでで海外産鶏ムネ肉を買えるだけ買ってしまおう。

 5日後か、了解。

 ポチッとな。



 5日もボーッとするのはアレなので、市場調査を行うことにした。

 文字が分からないので商品名は読めないが、数字は分かるので現物を見ていくらで販売されているかを確認する。


 布製品が高い……麻か綿花の供給が足りてない様だ。

 肉が保存食ばかり……春先だからか余った保存食が安く売られているようだが、新鮮な物が見当たらない。

 果物が若干高い……これも供給不足かな。栽培は年単位で考えないといけないからな。

 野菜が見当たらない……どういうこっちゃい。山菜すら無いのか。

 穀物が見当たらない……何喰って生きてるんだよ。

 水……井戸。

 酒……酒場でエールっぽいのがあるだけ。(らしい)

 こんなところか。


 っていうか、もうツッコミどころしか無い。

 嗜好品とかそういうレベル以前の状態だ。

 芋、米、トウモロコシあたりを出したら無双できるんじゃないか?


 しかしマズったな。買い物はもうやっちゃって残高無いんだよな。担保も無いから掛け払いも出来ない。

 孤児院ポーカの人に相談するか。

 



「で、俺にその怪しい商売とやらに加担しろと?」


 孤児院に話を通したらフォールドの兄貴が来たので先払いで商売をしたいと申し出た返答がコレだ。まあ、当然ではある。


「怪しいのは認める。だけど俺だけが儲かる話じゃないし、用意できる物ならなんでも仕入れるよ。」

「……詳細を話せ。」

「簡単な話だよ、担保になる物を貸してほしい。返却できるまであんたの所に身を預ける。」

「それじゃあ食い扶持が増えるだけだ。意味がねえ。……いや、しかし。そうだな。酒を持ってこれるなら考えてやる。」

「それならお安いご用だけど、酒は市場に出回ってなかったよね。何かあるの?」

「んなことも知らねえのか。代官が全部管理してんだよ。だから酒場のエールは薄い。なんで代官から引っ張ることが出来るのかって聞いてる。」


 ああ、なるほど。酒は代官、つまるところ貴族階級の持ち物か。

 市場に出してないってことはそんなに量が無いということだな。

 

「別口から持ってくるのがアリなら出来るよ。」

「面白ぇ。言ったなガキ?」

「注文したい酒の種類を言って。」

「酒の種類?酒は酒だろう?」

「果物、穀物、芋。いろんな物から作れるよ。ああ、金が掛かるから全種類とか言わないでね?」

「チッ。それなら麦だ。」

「麦。ラガー弱いの焼酎強いのがあるよ。」

「麦にも種類があるのか?じゃあ強い方だ。エールは酒場に行きゃ飲める。」


 担保になる物を持ってくるから待ってろと言って部屋から出て行ったので、その間に計算したいので板切れを貸してくれと残っていた護衛の人に頼む。

 板切れと筆を貸してもらった。確かに読み書きに筆は必要だ。

 

 企業秘密なので、と狭い別室に移動させてもらい、麦焼酎の相場を確認する。

 しまった。樽販売にしようと思ったら金属樽だ。そうなるとパックか瓶のケース売りしかないな。

 でもって瓶は透き通りすぎてダメだな。パックにして、取り出した後は燃料にしてしまおう。



「待たせた。賭けに乗ってきた奴らからのカネだ。担保なんてまどろっこしいものよりいいだろ。」

「ありがと。追加料金払えば優先で仕入れて貰えるけどどうする?」

「幾らだ。」

「(通常の配送料は俺が出すから特急料金は……)2千ジル。それと酒を貯める樽かかめを用意して。」

「そんくらいなら出してやる。樽か甕は……そうだな。水甕の余ってるのがあっただろ。ソレを使いな。どこに置けばいい?」

「俺が今働いている商会の倉庫。後で場所を教えるよ。」

「オーショウさんの所か。となるとあそこかな。分かってると思うが、逃げるなよ?」

「こんな子供が逃げられると思う?」

 

 

 夜遅く宿に着き、寝る前に忘れないよう発注。

 そして翌日。指定した倉庫に大小様々な甕が運ばれてきた。

 発注量を考えると、酒の詰め替えで明日は潰れるな。

 まあ、カーク側から見れば倉庫で何かしらの作業をやっているカモフラージュになるから丁度良い。

 そして作業後、酒の入っていたパックを宿の厨房のかまどに放り込んで証拠隠滅。

 待機していた見張りに報告して、倉庫でフォールドの兄貴を待つ。


 うぉ。思ったより大人数が押しかけてきた。


「よぉ、首を長くして待ってたぜ。後ろのは賭けに乗った連中だから気にすんな。」

「気にしないでいられる人数じゃないんだけどな。例のものはちゃんと倉庫にあるよ。」

「おう。 アンティ!チェック!毒味の栄誉を授けてやる。」

「「よっしゃ!」」


 フォールドの兄貴からコップを受け取った2人が倉庫に入り、甕から掬って口に入れる。

 あーあー。そんな急いで飲んだら咽灼けるぞ。

 

 案の定せてゲホゲホやってるのを見て白目を向けられるが、2人から毒じゃないと証言してもらって、流れで試飲会となった。

 が、あまり好評ではなかった。

 理由としては「酒精が強すぎて風味が抜けてる。」ということだが、蒸留酒ってそういうものだ。

 水やジュースなどで割って飲むものだと説明し、そこからは商売っ気溢れる雰囲気となった。


「ウチのシノギに出来ませんかね。」

「仕入れ元がコイツしか居ないんじゃ意味がねえ。」

「絞めて作り方を吐き出させるのは?」

「商売人が作り方知ってるわけないだろ。それにガキとは言え仕入れ先をおいそれと吐くかよ。」

 

 とまあ物騒な言葉が聞こえる。

 締め上げられるかもしれない側としては非常に気まずい。


 とりあえず酒である事は確かなので賭けは勝ちとしてもらい、全部の甕を持って帰ってもらった。

 これで多少の商売は出来る小金が貯まったかな。


 

 

 4日後、日が傾いた頃に脳内でアラームが鳴る。

 最初に頼んだ携帯保存食と肉が届いたようだ。

 まずはカークに言われた倉庫へ向かい、全量を置いた。

 

 その後、孤児院のバックポーカから人を出してもらい、その全量をいったん倉庫に入れて貰う。

 そして肉だけ開けて孤児院に寄贈。

 で、携帯保存食は再びカークの倉庫に運んでもらって戻す。


 ややこしい事をしたが、無から商品を生み出したなんて知られるわけにいかないので、カーク側・ポーカ側共にどっからか配送されたという証跡を残したのだ。

 

 仕上げとして、カークが居る事務所に行き報告をするのだが……


「ごめん。手違いがあって早く到着したみたい。」

「普通は逆じゃないのか?」

「窮状を伝えたら気を利かせてくれたみたい。持つべきは優良な仕入れ先だね。」

「至言だな。それで、次の荷を積むのは12日後を予定しているが、なにかやることがあるか?」

「?いや、予定は無いけど……。」


 話を聞くと、俺を仕入れ先にした転売をしたいらしい。

 暫くはストーブこの街に居るつもりだったので、都度決済の条件で引き受けた。


 ……のだが、どんな商品を扱うか知りたいのでリスト化してくれと言われてしまった。

 文字の読み書き出来ないんだが。


「おまえさん、そんな調子でよく行商できたな。」

「使い道不明の美術品とおんなじ。実物見てもらっての商売だったんだよ。それに俺の国の文字なら書けるよ。」

「……まあ、いい。生活必需品があればそれを種類多めに用意してくれ。木簡は自分で用意しろよ?」

「木簡……なるほど、じゃあそこからにしようかな。」


 木簡とは、紙が貴重な時代に羊皮紙の代わりに使われた木の板だ。

 ならばコピー用紙という上位互換がある。

 

「それから、支払いは後払いだ。どんな品物か分からないからな。」

「……了解。」


 そういえばコピー用紙、原料は紙だけじゃなかったよな。テカリ出すためになんか混ぜてたはず。

 それだとダメだから……

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