カロリー仲間

「あ痛たたた……痛え……ッゥ〜……」

「だーいじょうぶかよタツ。」

「いや、いかに体動かしてなかったかをね、しみじみ感じてんの。」

「なーんだそりゃ。休憩しないで走り続けた御者よりもひでえじゃないか。それで行商やってたって本当かぁ?」


 筋肉痛である。湿布買うにも金がないし、届くまで遅い。

 たしかにこうなると現代人は運動した方が良いって思うわ。

 システムエンジニアさんは座りっぱなしだからなー。


「行商にでたのはつい最近なんで、少しの運動でこーなるんだよ。」

「嘘つけー。おれと同い年くらいだろ?子供が店で働けるわけないじゃん。」

「…………。」


 俺は本当は46なんだよ、丁稚のクソガキ君。


 しかし移動中だからいいものの、明日目的地に到着するまでに治まってくれないと困るな。

 賃金減らされるとそのまま生活にダメージが来る。


 携帯保存食はほとんど同僚に売っぱらっちゃったしなぁ……はぁ、幾らか入金したとはいえ腰の袋がジャラジャラうるせぇ。

 


 

「タツ。あの"かろりーなかま"とかいうやつ、もう無いのか?」

「カークのにいちゃん。アレは作るのに日数掛かるし、何より元手が無いから無理だよ。」

「そうか。結構美味かったからウチから出る前に用意できたらと思ったんだが……。」


 あー。カッチカチの塩漬け肉とかよりは好評だもんなぁ。

 

「カークのにいちゃん。元手があれば出来るんだ。一箱1万程度だよ。」

「1箱で1万ジル!?ちょっと高すぎないか。あれ2本で黄銅貨1枚分もするとは思えないんだが。」

「ん?あー、違う違う。2本入りの小さい箱が60個で1箱。」

「おぉ。すると………………」

「小さいのが200ないくらい、1本だと100を切る。」

「ああ、だから2箱を白銅貨3枚で売ってくれたのか……って原価割れしてるじゃないか。」

「利益込みだよ。仕入れ値なら心配要らない。」

「子供ながらそこまで考えてるのか、しっかりしている。こりゃ伝手も教えて貰えなさそうだな。」

 

 現代との物価の換算はまだ分からないが、通貨の単位換算は出来そうだ。

 この国は銅が主流の通貨で単位はジルらしい。

 貨幣は黄銅貨と白銅貨、それに奇数で買った奴が払った大きめの青銅貨が一般的な単位か。これは覚えておかないといかんな。

 

 ちなみに、通販サイトは元いた世界の円単位のままだ。

 150ジルで白銅貨1枚と青銅貨5枚、つまりこの大きめの青銅貨1枚が10円で白銅貨が100円というわけだな。


 値段を聞いたカークが何やら考えている。

 これは商談のチャンスだろう。


「仕入れの希望があるなら言ってよ。先払いにはなるけど遅くとも10日ほどで用意出来ると思う。ああ、送料別だよ。」

「本当か?ならストーブに着いたらすぐ頼む。支払いは……とりあえずこれでいいか?」

 

 言いながら財布から5円玉の色、つまり黄銅貨を出してきた。

 黄銅貨だから1箱かな。送料別と言ったんだが……。


「見たことなかったか?大黄銅貨だ。送料が幾らかは知らないが、まさか合計で10万までは行かないだろう?」


 おぉう、10万か。たしか送料込み原価が1箱8千だからこれは利益が結構出るな。

 それにこの配送のついでに買い物が出来そうだ。


 

 5日ほどかけていくつかの村を廻り、いよいよストーブという街に向かう事となった。

 雪解け水がどーたらと言っていたので今は春先なのだろう。

 筋肉痛は続いている。


「なあタツ、聞いたぞ。カークの旦那にあの保存食売るんだって?俺にも売ってくれよ。」


 ……これで4人目だ。

 完全栄養食じゃないとは言ってあるんだけどなー。

 そんなに似非チョコレート味が美味いか。


「1箱1万ジル先払い。送料はカークのにいちゃんが持ってくれるから後で礼を言ってよ。」

「おっしゃ。2箱だ。それと1,000日保つってのは本当か?」

「ちゃんとした保管をすればねー。湿気のあるところに置いてたらカビるとかは他の保存食と同じ。」

「へへ、そりゃそうだ。だけどあんな甘いのに安いとなりゃ誰だって欲しくなるってもんだぜ。」


 うーん。失敗したかな。段ボール梱包に紙とビニールの包装だし。

 塩とか胡椒みたいな戦略物質じゃないから大丈夫と思いたい。




 検問の列に並んで数刻。

 ストーブの街の外郭を通り抜けたそこはいわゆるナーロッパだった。

 商業区画はセメントっぽいのを接着剤にレンガを貼り付けた建物が立ち並ぶ。

 なんて言ったっけ?あれだ、ローマンコンクリート。あれに似たようなのが使われてるらしい。

 だが建物の心材に鉄は使われていないらしく低く建築されているように見える。

 見回りの兵士は鈍く銀色に光る剣を帯剣していたが、身を覆っているのは青みがかっているので青銅だろう。

 

 どうやら鉄は完全には普及していないらしい。

 その代わり銅はもとより金銀が加工されているらしく、派手に着飾っているおばちゃんがたまに居た。

 なお街中に川は流れていないらしい。普通に井戸なのだそうな。


 今居る商業区画専用の滞在権が書かれた割り札をカークがまとめ買いし、隊列の皆に配る。

 渡された割り札には20日ほどこの街に滞在すると書いてあるらしい。

 困った。字が読めない。


 倉庫に案内され、今回の旅程で余った商品や購入した物品を降ろす。

 そのあと各々解散というところで別の倉庫に案内され、鍵を渡された。


「例のモノはここに置いてくれ。みんなの分もな。」

「わかった。搬入したらどこに知らせれば良い?」

「最初に荷下ろしした倉庫があっただろ、そこの2階で俺を呼んでくれ。」


 わかったと返事し、今日の宿を探しに向かうが、看板が文字ばかりで分からない。ええい、ここにはピクトグラムの概念は無いのか?

 


 なんとか酒場が併設されていない宿を探し、10日ほど滞在することにした。

 数字が10進法なのは非常に助かった。

 まず覚えないといけない文字が10個で済むし、計算が楽だからな。


 割り当てられた部屋に入ったらまず戸締まりを確認して、通販サイトで在庫を確認する。

 もう少し欲張ってパレット買いにすれば大分利益出るな。


 まあ送料の都合上、今日のところは発注せずにおいとこう。

 で、次は偽装を考えないといけないんだが……疲れが溜まりすぎてて眠い。

 明日になったら考えよう――

 

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