現地入り
一昼夜漕いで朝方、人里が見えた。
人里と言うには人口が多く、村と言って差し支えない規模だ。
文明レベルは……集落から出てるのが黒煙。炭は無いな。
集落から外れたところに炉みたいなのがある。
ってことは鉄器があるかどうかの頃かな?
だとすると
近づいてみると木の柵で村を覆って、出入り口に門番らしき人が立っている。
「まいど、どうも。」
果たして日本語は通じるか?
「やあ、見ない顔の子供だな。変わったのに乗ってるが、商人の見習いかい?」
「ええ、行商の修行から独立したんですけど、道中盗賊に襲われてしまったんですよ。何とか商品の
「ふぅん。そりゃ災難だ。まぁ、入りなよ。」
うん?スルーされたってことは盗賊に対しての警備じゃないのか。
ま、いいか。日本語通じるのであればとりあえず問題無い。
「ありがとう。鍛冶屋は何処にあります?」
「道なりに行けば分かるよ。カンカンうるさいから住居から離れてるんだ。
ああ、それと荷物無くても商人が来たら鐘を鳴らす決まりなんでな。ちっとうるさくするぜ。」
一定のリズムで叩かれる鐘を背に鍛冶屋へと向かう。
窓から住人が覗いてくるが、こちとら子供一人だから奇異の目で見られるのはしょうがない。
住宅地を抜けると耕作地に出た。
大部分の作物が実っていないということは、少なくとも秋ではなく、青々と育っていないから夏でもないと。
うーむ。主食が何かで地域の当たりを付けたかったが。
とにかく、まずは鍛冶屋だ。
カンカンうるさい工房の隣にある店舗らしき建物へ入ると、ずんぐりむっくりなおばちゃんが居た。
ここが異世界ならこの人はドワーフかな。ケモ耳への期待が高まる。
「見ない顔だね。子供なのに商人かい?」
「行商です。固い鉄製品を分解して買って貰おうかと。」
「分解?また変な依頼だね。その製品とやらはオモテかい?」
「ええ、見たら驚くかもしれませんけど。」
表に出てきたおばちゃんは一目見ただけで手に負えないと思ったのか、工房に入っていった。
ちょっとした怒鳴り声が聞こえたかと思ったらおっちゃんを連れてきた。
「あんた、これなんだけどさ。子供らの荷車にしたって小さい荷台だよねぇ。背負子より小さい。」
「ほーん。……新製品を盗賊に狙われて逃げてきたって感じかな?」
俺の足下をチラッと見てこっちの目を見据えてきた。どうやら偽装ストーリー通りの想像をしてくれたようだ。
「そんなところです。ですがこの通り用途が限定されるため失敗作となったので、分解して農具にしてしまおうかと。鉄以上の硬さは保証しますよ。」
「さわっても?」
「もちろん。分解前提ですので叩いてもいいです。でも高値を付けてくれると助かります。ああ、車輪は残して荷車に付けると良いかもしれません。」
なるほどと言って工房に入れ、「溶かすにしても割らねえとな。」とフレームをハンマーで叩こうとしたが。
ガキンッという音と共に反動を受けて痺れた腕を押さえるおっちゃん。
「……なるほど、こりゃあ硬ぇ。鋤とかには良いかもしれんな。坊主、加工の目途がつくまでウチに泊まっていけや。いろいろ聞きてぇし、文無しだろ?
カアチャン、坊主に靴やってくれ。さすがに見てられん。」
「お気遣いどうも。壊すなら溶接部、この継ぎ目狙った方が良いですよ。あとネジ……この出っ張りを回して外すと叩かなくても分解できます。」
結局一日では分解しきれず夜になった。
おっちゃんは何か作ってみると言って俺を工房から追い出して引きこもってしまったので、店舗の方に顔を出す。
すると門番の鳴らした鐘を聞いていたおばちゃんグループが待ち受けていた。
どんな商品を扱っていたのかを聞かれたり伝手を教えてほしいとか無茶言われたりしたがのらりくらりと躱し床に就く。
ガンガンうるさい音も慣れてしまったのか、はたまた疲れが思っていた以上に溜まっていたのか、寝ることが出来た。
翌朝。すっかり農具に化けた元ママチャリを見せられた。
これでオーバーテクノロジーは証拠隠滅できたわけだ。
「叩いて分かったんだが、元のふれーむって奴よりは柔らかくなっちまった。だが普通の鉄よりは硬い。良い農具に仕上がったと思うぜ。
それで、カネなんだがな。あんま手元にねーからよぅ。現物でいいか?」
といって渡されたのが白銀の延べ棒。鍛冶屋のおっちゃん曰く貨幣くらいにしか使えない純度の低いミスリルらしい。
なんでも支給品として代官〜村長経由で領主から貰ったものの、使い道が無くて困っていたんだそうな。
「お互い不要物の交換って事だ。」と笑って渡してくれた。
早速板切れを取り出し通販サイトの入金を思い浮かべながら延べ棒を押し込む。
そして残高確認……特急料金にしなければ何かが買える程度の金額になった。これならなんとか商売を開始できそうだ。
さて
宿借りるにも現金が無いからどうにかしないといけないなと考えながら村の住宅街へ足を運ぶ。
すると俺が村に着いたときと同じリズムで鐘が鳴るのが聞こえた。現地の商人か?
入り口に着くと、馬車が隊列を組んで荷下ろしをしていた。結構な規模の様だ。
「おや、この村では見ない顔だ。昨日来たっていう商人の少年かい?」
「そうだよ。盗賊に襲われて文無しさ。」
隊商の一人に声を掛けられたのでそちらを向き、答える。
「そうかい。越冬明け狙いの奴にウチもやられてね。商品は守れたが、人手不足なんだ。よければ手伝ってくれないか?」
「助かります、しばらくお世話になります。」
渡りに船だ。ここは乗る一択だな。
で、客との取引ではなく荷物の上げ下ろしを頼まれた。これは当然だ。取引を人任せにするとかあり得ない。
だが相場を知るためにも取引の会話はなるべく聞いておきたい。
……だめだ、「これくらい」って言いながらハンドサインやってる。
しょうがない。お仕事頑張りますか。
取引が一段落したのか、休憩を回すようになった。
さっきスカウトしてきた奴に声を掛けられた。
「手伝ってくれてありがとう。俺はカーク。君の名前は?」
「
「なに、同業のよしみだ。それでタツ、よければ扱ってた品目を教えてくれるかな。」
「企業秘密と言いたいところだけど、何でも扱うよ。(この時代では)変なモノばかりだけどね。」
「そうか。ウチも手広くやってるんで商売敵だったらどうしようかと思っていたところだ。」
「同じ
「信じよう。さて、いつまでウチに居てくれる?」
「10日間分くらいの生活費を稼ぎたい。それとそこそこの街で降ろしてくれると助かるかな。」
咄嗟に出した条件だが悪くないと思う。
特急料金じゃ無い場合は7日間待たされるからカネが持たないのはマズい。
それで朝の売り上げを使って商売が出来れば良いと思ったのだ。
「それじゃあ、ストーブの街で降ろすからその街から隊商が出発するまで頼むよ。」
「分かった。」
……どこだよそれ。とは言えないつらさ。
どうでもいいが、こんだけ運動させられたらアレが来るな……。
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