業務用。

印西牧の原終点

毎度のくだり

 臨時の荷役で日銭を稼いで飢えをしのぐ。

 それですらマシな生活だったスラム暮らし。


 徒党を組んで犯罪に手を染めるわけでもなく、ぼーんやりと過ごしていた少年。


 夢の中に出た美味しそうな食べ物が購入出来ると知った時、歓喜したのは遠い昔。

 そこに並んでいた沢山の数字に絶望してからは表示される商品をみては空腹を紛らわしていた。


 銀貨なんて見たことない。

 手持ちにあるのはびた銭の銅貨。


 今日はスラムを離れて食べられる野草探し。

 お昼に食べたのが毒草だったのか、おなかが空きすぎたのか、めまいが酷い。


 夜になっても毒が抜けることはなく、目を閉じた少年は二度と目覚めることがなかった。

 


 


 起きたら知らないところに居て、流行の異世界転移ものかと色々試したところ、少なくともレベルの概念とスキルの概念と鑑定とストレージボックス的なものは無いことが判明しました。

 

 夢で神様に会った記憶も無いし、叩けば痛い。

 うむ。よわい46にして夢物語に飛ばされるのは別に良いけど何もないってのはご勘弁。

 ケモ耳(ケモ度1〜2)に取り囲まれてアンナコトやコンナコトされるなら兎も角、在宅勤務ひきこもりのシステムエンジニアにいきなり表出ろってどんな罰ゲームだよ。

 しかも裸足で野山を駆け回れってか?昭和でもやらんわ。


「さて、逃避もこれくらいにしとこうか。」


 視点が妙に低い。着ている服も貫頭衣っぽい。メガネが無くてもよく見える。

 これは憑依かなんかして誰かの人生乗っ取ったか、頭打って途中覚醒したかと疑うが、その場合あるはずのもう1つの記憶がない。

 うむ。とりあえず顔が分からんので水場で姿を確認する必要があるな。

 

 仮に何か事故があって自分に切り替わったのであれば、原因となったモノがあるはずなので近場を歩き回ってみる。

 朽ちた馬車1つ無い。


 出生は謎ということか。

 それじゃ次。現実的に生き残るための手段探しだ。ワンチャン夢の中かもしれないが……。


 まずは持ち物確認。目の前にある火打ち石らしきものとナイフ代わりであっただろう割れた石。

 それからまな板にしていたらしい変な板を回収。

 あと通貨であろう丸っこい銅。鍛造にしては凹凸が浅い。

 それに噛みちぎられたなんかの葉っぱ……これキョウチクトウ公園とかにある全身毒の木じゃね?

 コイツは捨てとこう。

 

 次の生きるための手段、水。ってことで水場探し。

 生き残る優先事項と期限は体温3時間、水3日、食料3週間。これ越えたらお陀仏。

 昔見たサバイバル番組でそんなことを言ってた覚えがある。


 

 長いこと歩き、日が高くなる頃に沢を見つける。

 煮沸する道具が無いので、病気や汚染されていないこと祈りつつ飲む……賭けに勝った。(たぶん)

 生き返るなぁ……。


 落ち着いたところで周りの様子を観察する。

 グエーと鳴く鳥が遠くに見えるくらいであとは細木。

 地面は土よりはアスファルトかっていうくらい硬く黒い。


 記憶からこんな環境に近い場所を思い起こす。


(……富士の樹海か?)



 確かアレはマグマが冷え固まったところに種が落ちて生長するが、栄養が無くて細い木ばかりになるって話だったはず。


(でも富士山ぽいの見えないんだよな。やっぱり別の場所か。)


 さて。仮に富士の樹海と同じ環境だとすると食べ物がほぼ無かったはずだ。

 

(食料が無い。いよいよ詰んだか?)


 道らしきものは無く、先人自殺者も見当たらない。

 だからといってあっちこっち移動するのは問題。目標も無い状態で動けば迷うって聞いたことあるしな。

 とりあえず沢の所に戻ろう。


 

 水の音を頼りになんとか戻り、一旦休憩したら次案に移行する。

 どんな文明であっても河口目指せば人里くらいはみつかるだろ。

 ……滅んでいない限り。


 

 湖広い。

 外周歩くのしんどい。

 葦とか竹とか笹とか、足に刺さって痛い。


 途中、蛙を捕まえたので食べることにした。

 足持って頭をその辺の岩に叩きつけ、しかるのちに皮を剥ぐ。


 火を起こして肉を竹串にはめ、地面にぶっ刺す。

 

 毒があったら終わりだなと思いつつ、全部食べた。


 疲労が凄かったのかそのまま寝てしまい、起きたときに寝込みを襲われなくて良かったとほっとした。

 でもってこの状況が夢じゃないことがほぼ確定したことに絶望する。

 

 失意のままカニや蛙を数匹捕まえて焼き、弁当にした。

 今日も生き残るために、……今度は河口へ向かおう。川の近くに集落って出来るものだからね。

 

 

 

 数日歩いて集落跡に辿り着き、屋根の下で寝ることが出来た。


 うん。集落跡。人っ子一人居ねえんだもんよ。

 開拓の失敗か、単に寂れたかはわからないが、集落は風化こそしていないものの誰もいない状態だった。

 疲れていたので集落中を回って集めた藁っぽいのにシーツ代わりの布きれを被せ、いろいろな確認は明日に回して寝ることにしたのだ。


 明けて翌朝。

 やっぱり人が居ない。


 幸いにも閉じられていなかった井戸で水を汲み、喉を潤す。

 人心地ついたところで持ってきていたまな板を持って念じる。

 さっき肉を載せて切ろうとしたときコイツの上に知らない通販サイトが出てきたのだ。日本語で。



 価格の単位が見たことない文字だ。なんて読むのか知らないが、異世界転移ものによくある設定なのでスルーする。

 とりあえず食べ物が欲しいので食品を検索しているのだが……何かおかしい。

 ロット、パレット、コンテナとかの単位が並び、最小単位でもケース売りでしか注文できない。あと送料もおかしい。離島オプション以上に数字が大きい。

 そして支払い方法として、掛払いが可能みたいだが担保設定しないとダメらしい。

 これは……


「もしかしなくてもB2B、しかも卸入れか。」


 B2C小売りじゃないのは盲点だった。だがこれから先、生きるためには使いこなすしかなさそうなので支払いについてもう少し調べる。

 異世界転移ものの通販サイトの仕様だと入金か換金が出来るはずなので、マイページからそれらしい画面を探すと……あった。物品を換金できる仕様のようだ。

 ならば当面使用する予定の一軒を除き全部換金してしまおう。

 

 ……そう都合良く行かないらしい。盗品拾いもの未鑑定よくわからない物を売ろうとすると買い叩かれる仕様がついている。el○naかな?

 とはいえ背に腹は代えられないので、端にあった建物から換金していくことにした。


 3軒目を倉庫から納屋まで全て消化したところで送料に届く。

 この集落には元々5軒しかない。

 ということは残りの1軒でケース売りの商品を買うしか無いわけで……。


 携帯保存食と3輪タイプのママチャリを買うことにした。

 保存食は1ケース単位だったが、ママチャリは小売りで助かった。販売頻度考えれば当然だけど複数台でしか購入出来なかったらヤバかった。

 そして本当は靴も買いたかったのだが1足単位で売られておらず、おまけに購入確認画面でお届け日が7日後とか出たので特急オプションを付けたら足りなくなったのだ。


 特急オプションでも1日掛かると出たので大人しく待機する。

 あまり食事を摂っていないから省エネだ。

 


 翌日。日が高くなった頃、脳内にインターホンのような音が響く。

 どうやって配達するのかと思っていたが、到着時に拡張現実ARのような形で商品が現れた。

 

 どこのPB商品プライベートブランドかは知らないが、カロリー仲間みたいなショートブレッド状の携帯保存食を開けてむさぼる。よくある胡散臭いチョコレードもどきの味。けど死にたくないので喰う。

 そして案の定口の中の水分が持ってかれたので井戸水で流し込む。


 腹が膨れたところで、これからの方向性を決める。

 とは言っても"比較的安全な人里へ向かう"大目標は決まっている。

 移動手段は後ろが2輪になって前後にカゴが付いてるママチャリ。集落から道と呼べるモノが延びているので、この道が人里まで伸びていることに賭けた。

 今出来ることはやり切った。あとは人里についたら携帯保存食とママチャリを売って、資金にしてから考えよう。

 

 それ以上のことを今は考える必要なし。失敗すれば野垂れ死ぬだけだ。

 いざ、出発デッパツ

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