第25話:再会

「悠希。来たぞ」


 普段より少し低い声でイヴがそう言った。

 その意味はメインモニターに映し出された、燃えるようなカラーリングのAMAでわかった。


「翔麻……訓練艦に乗ってたのに、実践投入されるのか!?」

「あれは訓練兵のレベルではない。おそらく訓練艦の護衛用だったのだろう。どうする?」

「どうって……翔麻と話をしたいけど、無線が繋がらないんだろ?」

「あぁ。新型機なのもあって、チャンネルがわからないからな。だが……おそらく機体側の方でこちらからの無線をシャットダウンしている可能性もある」

「え、なんで?」

「真実が伝わらないように……わかるか?」


 真実……。コロニーのことや脱出艇の一機が破壊されたこと。

 帝国軍やつらが翔麻に真実を隠していたとして、それを解放軍の無線で真実を知られるのを恐れてってことか。翔麻はあの性格だ。この前だってこっちを無茶苦茶非難していたし、それに対してこっちが反論すれば翔麻も気づくかもしれない。

 どちらが本当のことを言っているのか。


 けど、話が出来ないのならどうしようもない。


「出来るぞ」

「え、出来るって……」

「接触回線だ。直接機体に触れれば、チャンネルを合わせる必要もなく声が届く」

「ちょ、直接触るって、でもそれ、難しいんじゃ!?」


 だって翔麻はヴァルキリーを敵だと思っている。俺が乗っていることだって気づいてくれないんだ。

 普通、敵が近づいて来たら逃げるか撃ち落とすだろ?

 翔麻が大人しく触らせてくれるとは思えない。


 俺だと気付いてくれれば……そうだっ。


「イヴ。頼みがあるんだけど」

「なんだ?」

「その……俺に操縦させて欲しいんだ。ゲームで団体戦やってるとき、翔麻と二人でよくやってたコンビネーションがあって。それを見せれば、俺だって気づいてくれるんじゃないかと思ってさ。あ、いやでも、戦闘中にそれやって危険だっていうなら……」

「アダム。メイン操縦とサブとをチェンジしろ。ラピットは私が動かす」


 や、やらせてもらえるのか!?


『了解しました。操縦システムのチェンジまでカウント5――4――』


 あ。切り替わったタイミングで動きを止めてしまったら、狙い撃つにされかねない。

 すぐにブースト・ステップで――。


『――ゼロ。システムチェンジ』

「行け、悠希」

「ありがとう、イヴ」


 一気に加速して翔麻の赤いAMAへと接近する。

 けど、直前でターン。左右に二回ずつブースト・ステップして、次はバックステップ。

 おどけて見せることで、対戦相手に挑発する。それを見た相手は腹を立てて飛び出してくるって寸法だ。

 いつもは翔麻と二人でやっていたけど、これを俺ひとりで、翔麻に受かってして見せた。


 気づけ、翔麻。俺はここにいるんだ。


 一度で気づかないなら、何度だって!

 二回、三回と同じ動きをして見せると、赤いAMAからの攻撃が止んだ。


「動きが鈍くなったようだな。突っ込んでみるか、悠希?」

「……気づいててくれよ、翔麻」


 接近してくる他のAMAは、イヴがラピットで撃ち落としていく。

 うあ、四機全部バラバラな動きをしているじゃないか。まさか全部個別に動かしてるってこと?

 なんでそんなことが出来るんだよ。


「おい、気づいていると思うか?」

「そ、そうあって欲しいけど」


 赤い機体からの攻撃は止んでいる。でもライフルの銃口はこちらに向けられたままだ。

 俺は悠希だ――気づいてくれ翔麻。

 そう願って両手を振って見せた。

 明らかに動揺しているようで、赤い機体が後ずさりする。


 ゆっくりと近づき、手を伸ばした。

 たのむ翔麻、触れてくれ。


 再び後ずさりする翔麻の機体。それでも俺はゆっくり近づき、そしてついに触れた。


「翔麻!」


 この声は本当に届くのだろうか。


「翔麻!! 俺だ、悠希だ! 俺も医療用ポットで、こっちの宇宙に飛んで来たんだ。お前たちとは五年も時間がずれてたけどさ」


 頼む。何か言ってくれよ。


「聞こえないのか、翔麻? なぁ?」

『……聞こえてるよ。悠希』

「翔麻!? やっぱり翔麻なんだな。生きていたんだ、やっぱり」

 

 よかった……翔麻が生きていてくれて、本当によかった。

 これで翔麻と戦わずに済む。


「翔麻。お前が帝国軍から何を聞いたのか知らないけど、そいつらはお前に嘘を教えているんだ。正義感が強くて優しいお前がいるべき所じゃないっ。な、一緒にこっちに来いよ」

『……おかしなことを言うんだね、悠希。君だって何を聞かされたか知らないけど、反乱軍が嘘を言っているんだって思わなかったのかい?』

「そう言われるかもとは思ったよ。けど俺は見て来たんだ。惑星デュランの採掘場で、俺たちより小さい子たちが働いているのを。おかしいだろ? 中学生ぐらいの子が鉱山で働いでいるんだぞ。虐げられている人たちがいて、帝国は虐げる側だってのはわかるだろ?」


 翔麻ならわかってくれるはずだ。


『わからないよ、悠希。脱出艇が一隻、撃ち落とされたんだ。撃ったのは元反乱軍の奴だったってっ。君はその時いなかったじゃないかっ。見ていなかったじゃないかっ。アキは……アキは……』


 ア、アキ……まさか!?


『アキは生きてるよ。生きてる。でもね、あの日からずっと眠り続けたままなんだ。反乱軍が撃ち落とした脱出艇の破片が、僕らの乗った船に突き刺さって。アキにその破片の一部が――アキの命を救ってくれたのは、帝国軍の人たちなんだよっ。僕が信じるのは、アキを救ってくれた人だ! アキを傷つけた奴らじゃないっ』

「しょ、翔麻。その船を撃ち落としたのは――」

『なんで今更……今更生きて出て来たんだ、悠希!』

「翔麻!?」


 俺だとわかっているのに、なんで銃口を向けるんだ。

 翔麻!?

 

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