第8話:第四章 記憶の檻を越えて


## 第八話:第四章 記憶の檻を越えて


 ギルドの中庭には、曇天の下でも静けさが広がっていた。


 レオンは、薄暗い空を見上げながら深く息を吐いた。

 数時間前、彼は《abbrev》と名付けられた短縮詠唱の“記憶干渉魔法”を完全に習得した。


 この魔法は、通常の“記憶干渉”から威力や対象範囲を削ることで、たった一語――《abbrev》――で発動可能とする異質な魔術だ。

 使用には精密な魔力の制御と高度な理解が求められるが、記憶に触れ、ねじ曲げ、あるいは優しく消すことすら可能になる。


(記憶に触れることが、こんなにも重いとはな……)


 目を閉じれば、昨日のあの呪いの石板の文字が脳裏に浮かぶ。

 あれは明らかに、この世界の理を無視した干渉の痕跡だった。


 そして、それに関与していた人物。レオンが気づいたのは“記憶の歪み”だ。

 ある村人――廃教会の供花を管理していた老人は、事件の起きた日に何をしていたかを語れなかった。


「花を……花を供えに……いや、あの日は……誰かと話を……したような……」


 話すたびに言葉が揺らぎ、記憶がかき乱されていた。まるで、その記憶に他人の指が触れていたかのように。


---


「記憶の隙間を埋めるのは、真実か、嘘か――」


 ギルドの地下資料庫にて、レオンは独りつぶやいた。


 周囲の書架には、古文書や記録簿、そしてギルドが過去に扱ってきた異常事件の記録が並ぶ。


 この世界には、表に出ない“記憶操作魔術”が存在していた。

 公には禁術とされ、正規の魔法体系には含まれていない。だが、“使える者”がいる。実際にいたのだ。


 今回の事件――あの供花が呪いに転じた事象と、関係者の曖昧な証言。

 これらを裏から操っていた“何者か”の存在が、確実に浮かび上がってきた。


---


 夜、レオンはこれが人為的なものだという確信が欲しかったため再び廃教会跡に足を運んでいた。


 現場にはすでに結界が張られ、ギルドの調査班は退去済みだ。


「……さて、調査開始としますか。」


 ひとり言のように問いながら、彼は静かに《abbrev》と唱えた。


 風が止まり、空気が揺れる。

 意識が滑るように、わずかな“記憶の残響”が浮かび上がった。


 それは、記録されていた“誰かの記憶”。

レオンはその記憶を覗くと沢山の記憶が見えた、この教会の皆の姿…そしてその教会がこのように壊れてしまったときのこと…その中に“一人の存在”が視界の隅に映った。黒いローブ、そして赤い瞳。


 レオンは確信する。


(やはり、“同じ魔法”を使う誰かがいる……)


---


 ギルドに戻ると、ナリアがカウンターの裏で帳簿の整理を手伝っていた。


 ミーナの指導のもと、読み書きを学びながら少しずつ“日常”を取り戻しつつあるようだった。


「……あ、レオンさん」


「お疲れさま。ちゃんと休んでるか?」


「うん。昨日は……少し、怖い夢を見たけど…なぜか教会にいる夢を見たの……何かが胸に引っかかってる気がする」


 その言葉に、レオンは静かに目を細めた。


 ナリアは――やはり“記憶を操作された側”だと確信して良いだろう。

 自分の意思ではなく、記憶に何かが施された。

 だが、それを告げるべきかどうか、彼は言葉を飲んだ。


---


 その夜。


 レオンはギルドの医務室に一人の人物を呼び寄せていた。

 かつて供花の管理をしていた老人――ゼバス。


「……あんた、事件の日に何があったか、思い出せないって言ってたな」


「そうじゃ。もう何日も考えておるが、頭がもやがかかったようで……」


 レオンは、椅子に座った老人の前に静かに立つ。


「記憶に触れる魔法がある。……ただし、危険もある。成功すれば、もやを晴らし、苦しい記憶も取り除けるかもしれない」


「……わしは、もう年じゃ。何もかも忘れても……構わんよ。あの日、何が起きたかがわかるなら」


 レオンは頷いた。


「……じゃあ、いくよ。目を閉じて、力を抜いて」


 そして彼は、呪文を囁いた。


「――《abbrev》」


---


 世界が静かに揺れた。


 ゼバスの記憶に入り、奥深くに刻まれた“傷”のような記憶を辿る。


 そこには、黒いフードの人物と、石板を手渡される老人の姿があった。

 それを受け取った瞬間、ゼバスの記憶は黒く染まり、その後が消えていた。


(……これは、意図的に“封印”された記憶だ)


 レオンはそっと指先を重ね、記憶に干渉する。

 そして、苦しみに満ちたその記憶の部分だけを“優しく”切り取った。


 同時に、ゼバスの顔からしわが消え、呼吸が穏やかになる。


「……ああ……楽になった……ありがとう、若いの」


 その表情には、穏やかな光が差していた。


---


(あれが“記憶干渉”の正体記憶を封印…というよりは消している方が正しいか。そしてそれを使う俺と同じ魔法を使う誰かがいる…)


 レオンは、ギルドの屋上でひとり空を見上げた。


「もしその誰かと敵対する時は記憶の消し会いでもするんかな…」




---




**(第九話へ続く)**


最後まで読んでくださりありがとうございますm(__)m

よかったらフォローや感想などをしてくださると嬉しいです!



 どうも作者です!

 最近新しいキャラクターが登場しないのでキャラクター豆知識ができない…( TДT)

まぁ、なんかこの作品物語展開が速い気がするのでもう少しストーリを練ろうと思いますので投稿ペースが落ちると思いますすいません!

それでは第九話でお会いしましょう~



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

騙す力は記憶に宿る――嘘と策略で異世界の頂点を目指す ただただ生きたくて @sibariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ