監査局の騎士

 神殿に差し込んだ逆光の中で、銀髪の騎士がゆっくりと歩み寄ってくる。白銀の軍服は一切の埃を寄せつけず、その胸元には王都の《監査局》の紋章がはっきりと刻まれていた。


 灰の狩人の男はその姿を見て、わずかに表情を曇らせた。


「……監査局直属の執行官か。貴様がここに来る理由はないはずだ」


「その判断は私がする。お前は既に越権行為をしている。封印者との交戦、及び“神喰らい”の処理を伴わない独断の戦闘。すべて王都の規定に反する」


 銀髪の男の声は冷静だったが、そこには確かな威圧があった。


 灰の狩人はしばらく黙っていたが、やがて短剣を納め、一歩後ろへ引いた。


「……了解した。対象の封印者については、監査局の判断に委ねる。だが──監視は続行する」


 そう言い残し、男は神殿の奥の闇へと姿を消していった。


 残された銀髪の男が、静かにこちらへと向き直る。カイルは自然と剣を下ろし、慎重に言葉を選んだ。


「……あなたは、王都の人間なんですか?」


「その通り。そして、君に会いに来た。名はアルベルト・シュトラール。監査局の執行官だ」


 彼の眼差しは冷たいが、どこか公平な印象を与える不思議な人物だった。


「君の“封印(S)”……そして先ほどの“封神の契”。あれは放置すれば、いずれ世界にとって脅威となる。だが同時に、正しく導けば、希望にもなる」


「つまり、あなたも俺の力を“管理”したい側の人間ってことですか?」


 カイルの問いに、アルベルトは首を横に振った。


「違う。私は“導く”つもりだ。君が自分の意志でこの力を選ぶならば、私たちはそれを支援する」


 ユリスが目を細めて聞いた。


「監査局が……個人の意思を尊重するなんて珍しい話ね」


「我々にも内部の対立がある。灰の狩人のように、すべてを“制御下”に置こうとする過激派もいれば、可能性を見ようとする者もいる。私は後者に過ぎない」


 ルナが問う。


「あなたが来た本当の理由は?」


 アルベルトはゆっくりと神殿の奥を見た。


「この遺跡は、神々の力を封じた“起点”のひとつ。君たちはその起動者となった。そして、その影響は──すでに王都にも波及し始めている」


 カイルは、その意味を理解した。


「他にも……目覚めた“封印”があるってことですか?」


「ああ。そして、その中には“人では扱えない”存在も含まれている。だから、私は君に力を磨いてほしい。君には、他の封印者を止める力がある」


 カイルはしばらく黙ったまま考えていた。だが、すぐに目を上げた。


「……分かりました。俺は逃げません。自分の力を知って、使いこなせるようになります」


 アルベルトは満足げに頷いた。


「それでいい。君たちには、まず“王都への招待”を出そう。本格的な訓練と、今後の進路を定めるためにも」


 旅の終わりではなく、新たな始まりの気配が、彼らの足元に広がり始めていた。

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異世界転生して孤児になったけど、最強スキル"封印(S)"が開花して最高の冒険者になる 彦彦炎 @hikohikohono

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