狩人たちの目的

 ローブの男は、まるで誰かの命令に従って動く機械のように、感情のない声で続けた。


「“封神の契”の再発現……想定より三ヶ月早い。対象:異界由来の封印適性持ち──識別名“カイル・ノア”。確保対象に該当」


「確保……だと?」


 カイルは剣を構え直す。神喰らいとの戦闘で負った疲労は重いが、目の前の男からただならぬ殺気を感じていた。


「貴様、王都の人間か?」


「王都直属・特務第七課灰の狩人所属。任務は封印者の管理と回収」


 ルナが低く息を呑んだ。


「やっぱり……灰の狩人が動いてる」


「本来なら、君たちのような民間冒険者には関わらせないが──今回は特例だ。君のスキルは、国家機密に等しい」


「俺のスキルを“管理”するつもりか?」


「そうだ。そしてそれは君の意思では止められない。選択肢は一つだ」


 男がマントを払うと、背中に収められていた二本の短剣が現れた。瞬間、男の姿が揺らいだ。


 ──速い!


「くるぞ、カイル!」


 ユリスの叫びと同時に、カイルは反射的に身を引いた。短剣が空気を裂き、彼の頬をかすめる。


「速すぎる……!」


 その動きは、先ほどの神喰らいよりも厄介だった。力ではなく、技術と速度。人の形をした“殺すための兵器”──それが灰の狩人だった。


「ルナ、援護を頼む!」


「了解!」


 雷撃の魔術が飛ぶが、男はその合間を縫うように動き、ほとんど当たらない。


「魔術の軌道を先読みしてる……!」


 ユリスが前に出て、再び封印術式を展開する。


「《封の環・第二式》──鎖の檻!」


 地面に浮かんだ紋章から、無数の鎖が立ち上がり男の動きを封じにかかる。


 だが、男は一瞬で鎖を避け、逆にその空白を突いてカイルに迫った。


「終わりだ」


 短剣がカイルの喉元を狙う。だがその瞬間、カイルの瞳が鋭く光った。


「……っ!」


 彼の剣が逆方向から振るわれ、男の短剣を弾いた。


「《封神の契》、再起動──限界解除!」


 剣からあふれる力が、神殿の空間を震わせる。今のカイルは、一時的に自らの封印すら解放する、リスクを伴う形態。


 だが、その一閃は確かに届いた。


 男のマントが裂け、体が後方に吹き飛ぶ。


「……想定以上だ。だが、次はない」


 血を流しながらも、男は再び構えを取った。明らかに、今度は殺すつもりだった。


 その時だった。


「──そこまでにしてもらおうか」


 神殿の入口から、もう一人の人物が現れた。長い銀髪に白い軍服。王都の“中央機関”の紋章を胸に刻んだ騎士だった。


「お前は……!」


 灰の狩人の男が目を細める。


「この件は、我々“監査局”が直接引き取る。王命によってな」


 銀髪の男は、淡々と言い放った。

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