わけもなく悲しい時

夏目碧央

第1話 わけもなく悲しい時

 わけもなく悲しくなる事がある。

 更年期か、と思ってみたりもする。更年期には女性ホルモンの急激な減少に加え、子供が巣立ってしまった寂しさから、いわゆる空の巣症候群も同時に起こり、うつ状態になる女性が多いとか。

 だが、悲しくなった時には必ず理由がある。少し前の会話で冷たくあしらわれたとか、Xでリプライしたのに「いいね」すらしてくれなかったとか。

 頭では悩む必要はないと納得しても、心が追いつかない。たくさんのちょっと悲しい事が次々と起こると、いつも悲しくて、何が悲しいのか分からなくて、だから「わけもなく」と思ってしまう。そしてうつ状態になる。

 何か悲しいと思ったら、何が悲しいのか、ちゃんと考えよう。本当は納得しきれていない自身の心に言い聞かせるように。


 リプしてくれないのは、考えが違うからだろう。的外れだったのかもしれない。もしかしたら、親しくもないのに話しかけてくるなよ、と思われたのかも。色々恥ずかしくなって、リプを消しに行った事もある。

 だが、もしかしたら、後でリプを返そうとしてうっかり忘れただけかもしれない。真実は分からないが、もし忘れただけだとしたら、そんな事でくよくよ悩んでいるのは馬鹿らしい。そう、私だってそのリプした相手が誰だったのか、忘れてしまっているのだから!

 ここまで考えて、ようやく心が納得する。思い悩む必要はないと、やっと心が軽くなる。ほらね、うつなんかじゃなかった。一つ一つ、放ったらかしにしないで考えよう。嫌な事はあまり考えたくないけれど、よく考えた先には、幸せな気持ちが待っているから。


 後日、リプをした相手を思い出し、見に行った。すると、私の他にも二、三人がリプしていたが、どのリプにも投稿者はリアクションしていなかった。つまり「いいね」すらしていなかった。

 なんだ、私だけではなかった。つまり、その人は「そういう人」だったのだ。投稿自体は「~ですか?」と問いかけていたのに、返事をしてくれても無視するのか。ちょっと呆れたけれど、不思議と「そういう人」なら安心した。自分だけが無視されたと思うと悲しい。人間、仲間外れや孤独が辛いのだね。仲間がいれば、自分ひとりでなければ何だって怖くない。対面だろうがネット上だろうが、基本変わらないようだ。


 わけもなく悲しい時、大抵それは人間関係のいざこざ。そして考え過ぎなのである。

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わけもなく悲しい時 夏目碧央 @Akiko-Katsuura

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