第参話:禁止録起動


カケルは、あの動画を三度再生した。


 映っているのは、ただの木造の像。顔が削がれたような、空っぽの面。

 けれど画面越しでも、映像の“奥”に何かが潜んでいるのを感じてしまう。

 それは映っていない。ただ、在るとしか言えない“何か”。


 再生を止め、掲示板を開く。

 特定のスレッドが異様な速度で伸びていた。


―――――――――――――――――――――――――



≪地方オカルト総合実況・白辺山スレ Part14≫


274:名無しの眼球 2025/6/15 02:11

 >>270

 マジでケンジの動画、社のとこで誰か立ってない?左奥。

 画面歪んでる気がするの俺だけ?


275:名無しの耳鳴り 2025/6/15 02:13

 >>274

 歪みわかる。あと音、小さく「キィ……」って鳴ってる。再生速度落とすと聞こえる。


276:名無しの吐息 2025/6/15 02:14

 これって像の呪いとかそういうやつ?

 投稿された時間と俺の悪寒のタイミングが同じで笑えない


――――――――――――――――――――――――――


 カケルは無言でログを保存していく。スクショ、スレの全文、コメントの推移、動画再生時の解析メモ――

 まるで「誰にも見せられない日記」のように、それらは“自分だけの観測”として積み上がっていく。


「これは……表に出すべきじゃない」


 そう思った。

 この違和感、この不穏、この無音のざわめきは、ネットのノイズで消費させてはいけない。

 むしろ、“視た人間”の数だけ、何かが近づいてくるような気さえしていた。


 モニターの端に、自分の姿が映り込む。

 鏡でもないのに、“それ”は自分をじっと観ている気がした。


 カケルは画面を閉じ、改めてひとつのフォルダを作る。


 《禁視録_00》


 その名は、誰にも見せない観測ログ。

 視ることで壊れてしまう“なにか”を、視るための記録。


 カケルは、文字を打ち込む。


 《観測対象:0》


 この瞬間から、“あれ”の記録は正式にログされることとなった。

 祭祀ではない。観測でもない。――これは、視てはならないものの記録だ。

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