第17話

 プラグVSフランチェスカの依頼数対決も始まって早2週間。

 状況は相変わらずプラグ優勢だ。

 

「それにしてもお主の杖はデカいのう、背丈よりあるでないの」


「杖? 魔法と一緒にするのはやめるのだよ。これは機関銃と言って、金属の塊を高速で打ち出すための機械なんだ」


 うっとりと銃身を撫でながら機関銃について説明するも、あまり響いた様子はない。

 

「?? そんなん錬金術と風の魔法を併せて使えば良くないかのう。わざわざ重い荷物を抱えることもあるまいに」


「わかってないね、それを魔法を使わずに行うのがロマンだろう。これだから魔法使いというのは」


 プラグが肩をすくめて反論するが、フランチェスカも負けていない。

 

「単純に非効率じゃろ、科学だか何だか知らんが、魔法には何千年と歴史があるんじゃ。それより優れているとは思えんのう」


 確かに現状、魔法で同じことができるならば銃の必要性はないはずだ。珍しくフランチェスカが議論で一歩リードしている。

 しかし、プラグの回答はそれ以上に懐の深さを感じさせるものだった。

 

「ふふ、今はまだ、そうかもしれないね。本音のところ、ボクでさえ現状の科学は拙いと感じている……でも」


 と、プラグは一息置いて。

 

「人は成長するものだ。それに比べて、神の授け物と言われた魔法体系はどうだ? 起こせる現象は太古から変わらず、変化と言えば詠唱が短くなったくらいだ。もはや進化の袋小路さ」


「うっ……中々痛いところを突くではないの。あえて否定はせんよ。人間の使う魔法というのは、少なくともここ数百年は大して変わっとらん。何なら内容の面では衰えておる気すらする」


 フランチェスカが400年中、幼少期を除いた大半の記憶を失っても対応できたのは、魔法が根本的には変化していなかったからだ。詠唱は短くなり、威力も増した。

 ただ、それだけだ。ここ数百年で新たに開発された魔法は片手の指で収まるくらいしかない。


「なら、キミはどうしてそんな泥舟にこだわるのかな」


「はっ、そりゃあ決まっとろうがい」


 口の端を吊り上げ、自分とプラグを交互に指差す。

 

「ロマンじゃよ」


「ああ、どこかで聞いたようなセリフなのだよ。だがその行く末は対照的だ。一方は栄光へ、一方は滅びへ」


「あいにく、諦めの悪い性格でのう。案外泥臭いんじゃよ? わしって」


 その言葉にプラグはふっ、と微笑み。


「知ってるさ。何せ大魔法使いフランチェスカ・マクドウェルは、貧しい農家からの叩き上げだ」


「はっ、よく調べておるでないの。そのこと、ダンたちには言うでないぞ。わしにもイメージがあるからのう」


 カッコつけながら言うフランチェスカだが。

 

「それを明らかにして壊れるイメージがあるとは到底思えないのだよ……」



 その後、ダンジョンの一画にて。 

  

「科学最高! 科学最高! 科学最高!」


 プラグが機関銃をドドドドっとぶっ放す。とんでもなく長い剣で辺りを薙いだように、モンスターの血飛沫が舞う。依頼はコボルト討伐。犬頭に人間のような身体を持つ魔獣だ。

 対するフランチェスカの依頼もコボルト討伐だが、こちらはより下層に棲みつくコボルトキングと呼ばれる群れの親玉の討伐だ。

 プラグが課せられた討伐数は5、フランチェスカは1、と言うことで再び考え方の差が出た形だ。


「稲妻寄りて縄を成せば、其は神代を隔てる境界なり。踊れ、雷鵡坐ラムザ


 3条の稲妻がコボルトたちに向かって走り、一瞬のうちに焦げた肉塊と化す。

 手伝うつもりなど毛頭なかったが、プラグの依頼はフランチェスカに遅れる形で受注したため、自分に用がある階層までたどり着くには結果としてプラグの手伝いをするような形になってしまったのだった。

  

「オラオラオラ!! 散るのだよ雑魚ども!!」


 ドドドドドド!! と低い音が洞窟にこだまする。

 

「お主、武器持つと性格変わるタイプかの?」


 銃を撃つと豹変するプラグの性格に、流石のフランチェスカも少し引き気味だった。



 勝負開始から一月後。ついに決着の時が来た。

 ダン、テルミ、マニマニ、ニナ、そして当事者二人が冒険者ギルドへと集合した。


 依頼完了時にもらえるレシートのような紙を集計し、合計の報奨金を算出する。

 結果は……。

 

「ま、負けた……わしがこんな小娘に……」


 ガックリと項垂れ、床に膝をつくフランチェスカ。ここまで落ち込んだ姿もなかなか見られない。

 対照的にプラグは喜びを隠せない。ニヤニヤで頬がぴくぴくと動いている。

 

「ふふん、当然なのだよ。やはり科学最高!」


 科学最高なるフレーズに、ビクッとなるフランチェスカ。

 プラグが機関銃をぶっ放す際に叫んでいたセリフのため、どうしても体が覚えてしまっていた。

 

「何じゃいびっくりさせおって、ここでぶっ放すつもりかと思ったぞい」


「ん? 何か言ったか?」


 勝利の喜びを愛銃と分かち合おうと、例によって銃身を撫でていたところだったから、当然プラグの向いた方向に銃口も向く。

 

「うぉい! 機関銃、機関銃! こっちに向いておる!!」


「ああ、すまないのだよ。一旦預けてくる」


 受付に訝しまれながらも、なんとか機関銃を預け終えたプラグ。

 どう扱われるか不安なのか、チラチラカウンターを振り返っている。


 そんな心中を慮る余裕もないのがフランチェスカだ。大口を叩いていただけに何をされるか戦々恐々である。


「んで? 何が望みじゃい。金か、それともわしの身体かえ?」


 短い肢体をくねくねさせて、身を守るような仕草を見せる大魔法使い。

 

「何を馬鹿な。ボクは平和主義者なのだよ、それに……魔法も案外面白そうだ」


「おっ? 見る目のある若人じゃのう、感心感心」


 魔法に興味を示したことで、先ほどまでの反感はどこへやら、慈しむような目線ですらある。

 

「お前、チョロすぎるだろ。孫と触れ合うおばあちゃんかよ」


「ダン、こいつは見どころのある女じゃ。この女の性奴隷として一生飼われても仕方ないのう」


「なっ!? ぼ、ボクの発言を偽るのはやめてもらおうか! 公衆の面前だぞ」


 驚くプラグに、フランチェスカは何を今更とばかりに肩をすくめて。

 

「それがいいんじゃろうに、わかっとらんのう」


「へ、変態だ……」


 完全にドン引きのプラグを見て、大魔法使いは笑う。

 

「冗談じゃ、学者先生は頭が固くて参るわい」


「話を戻すがのう、勝負に負けたのに対価がないのは気持ちが悪い。遠慮せずに望みを言うのじゃ、できる範囲で叶えてやろう」


 これは彼女の本心だった。魔法使いほど、約束や自ら決めた規則にこだわる者もいまい。

 フランチェスカの表情に、流石に真剣なものを感じ取ったのか。

 

「フムン……なら、ボクに魔法を教えてくれないか?」


「ええよ、そんなんで良いんかの? もっと激しいプレイとかそういうのは……」


「いらないのだよ! ボクの配慮を返せ!」



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月・水・金・日曜日の20時45分頃に投稿予定です。


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