第18話
「フランチェスカに勝った、プラグ・イン・ハイブリッドなのだよ。改めてよろしく頼む」
プラグの勝利に終わった勝負から1週間後。
対価として魔法を学ぶことを要求した彼女は、ダンの家を訪れていた。
もちろん目的は居候の魔法使いだ。
ローテーブルを挟んだ2つのソファの片方にダン、ニナ。反対にマニマニ、テルミ、フランチェスカが腰掛けている。ニナがダンの隣を、フランチェスカがテルミの隣を、それぞれ熱望した結果だった。
「腹立つ自己紹介じゃのう。わしのガラスハートはバキバキじゃ、お嬢に癒してもらお」
「っと! そう簡単に揉まれてたまるか!」
右隣のテルミに食指を伸ばす変態魔法使い。
やられる側も慣れたもので、ひょいと身をかわす。
「わしは孤独じゃ……もう生きていかれん。マヂつらい」
「……フランチェスカは不死身、だから大丈夫」
ニナがフォローともつかない言葉をかけるが、彼女には響かない。
「大丈夫じゃないが!? 身体は死なんでも心は死ぬんじゃよ〜、わしと触れ合っておくれよ〜」
目に涙すら浮かべて、今度は対岸のニナに手を伸ばす。
それをジト目で眺めてマニマニが言った。
「見た目に騙されるっすけど、これを何百歳の人間がやってると思うとくるものがありますね」
「あー! 言ったらいかんことを言ったな!」
席を立ってマニマニを非難がましく指差す。
「落ち着け400歳児」
「『児』を付けるな!」
ギャーギャーとじゃれ合う姿を目にして、プラグが感慨深げにつぶやいた。
「……キミたちは本当に賑やかだな。少し羨ましい」
それを聞いてフランチェスカが不思議そうに首をかしげて答える。
「何を他人事のように言うとるんじゃ。お主ももうこっち側じゃぞ? そうじゃろ? ダン」
ニヤリとしながらダンを見やるフランチェスカ。
同じ表情でダンは微笑む。
「だな、うるせーのが1人増えた」
「そ、そうか。う、うん……よろしく頼むのだよ!」
満更でもなさそうに、若干頬を赤らめるプラグ。その反応を見て、フランチェスカが目を細めた。
「おお? こやつ照れておるぞ、ほほお、こういうのに弱いんじゃな。ババア、覚えた」
そんな感じに雑談していると、玄関から声が響く。
「冒険者ギルドの者です。少しよろしいでしょうか」
「はいはーい、開いてるっすよー」
マニマニが軽く答えると、ブーツの鈍い足音がして、黒いコートを羽織ったスキンヘッドの男が現れた。
「失礼します。……もしや、大魔法使いのマクドウェル様でしょうか」
「ん? んん? お主は…………むむ! バディ! バディ・マン! 久しいのう、息災だったかえ?」
「ええ、おかげさまで。今は冒険者を引退してギルドの職員をしております。失礼ですが、この20年、どちらにおられたので? 随分手を尽くして探しましたが、我々では見つけられませんでして」
しかも相当古い知り合いのようだ。スキンヘッドの話が本当なら、フランチェスカが監禁されるくらいまで行動を共にしていたとのこと。
「あー……まあ色々あってな、表舞台には出られんかったんじゃ。いきなりのことだった故、挨拶もできずにすまんのう」
自らが監禁されていたなどとは流石に言いにくいのだろう。目を逸らしながらばつの悪そうな表情だ。
下手に詮索するのは悪手と思ったのか、スキンヘッドは笑いながら首を振った。
「いえいえ私のことは気になさらず。それより、あの後レベッカとはお会いになりましたか」
「知らんのじゃ、魔族の手下など。今ものうのうと生きておるじゃろ」
懐かしむようなスキンヘッドの言い方に対し、フランチェスカはあからさまに顔をしかめる。
レベッカという人物、彼女と相当折り合いが悪かったようだ。
「……レベッカは、マクドウェル様と喧嘩別れになったことを最後まで悔いておりました」
「何を馬鹿な、あの件は奴の差金じゃろうに。……それよりその言い方、奴は死んだのか」
スキンヘッドは重苦しい表情だが、フランチェスカは変わらずだ。
「生きておりますよ、きっと。魔王軍の残党に合流したようですが」
「魔族との共存、か。何を考えておるのやら」
しかめ面からわずかに眉を緩め、大魔法使いは回想に浸る。
「私にもわかりかねます。姉御肌だった彼女のことです、向こうでもうまくやっているでしょう。……ちなみにあの件とは?」
「すまんが、それは言えん。んで? 用件は何じゃ?」
あの件とはチンピラの巣窟からダンに救出された件だ。
早く切り上げたそうに、話題を変えた。
「本日は皆さんにお願いがあり、足を運ばせていただきました。簡単にご説明をさせていただきたいのですが、ご都合はいかがでしょうか」
「断る」
ノータイムでお断り。それに焦ったのがマニマニだ。
「フランチェスカさん! いきなり断るなんてひどいっすよ、ギルドに睨まれたらどうするっすか! 権力って怖いんすよ?」
「やかましい、わしは知っとるんじゃ。こやつがかしこまって頼み事をするのは、決まってロクでもない内容の時なんじゃ」
眉を吊り上げてスキンヘッドを睨む。面倒ごとを持ってきてくれるなと言いたげな目線だ。
かつての知り合いだからか、男は視線に動じず話を進める。
「実は、この街の祭りの時期が近づいておりまして、ギルドとしても何か出し物を考えねばならないのです。そこで、皆さんに協力を依頼したいのです」
「協力ったって、何させる気だ? 」
「皆さんにはギルドの出し物について、お任せしたいと思います。もちろん報酬は弾みます、この人数であれば半年は働かずに暮らせるでしょう」
「マジっすか!? やります! やらせて欲しいっす!!」
「金に物を言わせた横暴じゃ、完全に丸投げでないの」
「……でも、お金は大事」
「冒険者としてこのような稼ぎ方はどうかと思うが」
「良いじゃん、楽そうだし。やってみようぜ、テルミも、金があれば良い装備とか買えるだろ?」
「ありがとうございます、助かります。では、よろしくお願いします」
「そういえば、祭りはいつやるんだ?」
「……明日でございます」
「明日!? そ、それは流石に……厳しいというか、何というか」
「どう言う風の吹き回しじゃ? 計画命のお主らしくもない」
「申し訳ありません。実は、他のパーティにはことごとく断られまして」
「にしてもなぜにここへ来たんじゃ」
「お金に人一倍執着する方がいらっしゃると聞いて、藁にもすがる思いで参りました」
「金に執着するやつ、誰じゃろうな、マニマニ」
「お金大好きな美少女とは一体誰でしょう? そう、私です。日頃から喧伝していた甲斐がありましたね」
「そこまで金を積んでもやりたいなら、なんで自分たちでやらないんだ? わざわざ俺たちに頼む意味がわからないんだが」
「……非常に面倒な問題なのですが、今回の祭りは政府の重鎮方も見学されます。『冒険者』が地域に貢献する姿を見せておかねば、ギルドの評価に響きます」
「世知辛いことじゃのう。じゃが、別に職員が担当しても良いのではないかえ?」
「いえ、それではまずいのです。冒険者とは、端的に言えば国家に巣食う、直接的には国家に属さない武力です。要するに、自分たちの意図に従うか試されているのですよ。従わなければ、機嫌を損ねた彼らは、首輪を強く締め付けるでしょう」
「いやはや、それがわかってなお協力せんとは、冒険者と言う連中はつくづく自由人じゃのう」
「とにかく、事情は把握しました! 是非ともこのマニマニ・デッドリーにお任せください!! ビジネスにかけては一家言あります!」
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