第16話
大魔法使いフランチェスカと、科学者のプラグがクエスト達成数で勝負することになった翌日。
「よっしゃ、やっちゃるぞい。科学ロリをぶっ倒すのじゃ! お主ら、手伝うてくれ!」
ふんす、と鼻を鳴らして気合十分のフランチェスカ。
対する他メンバーの反応は渋い。
「え、やだよ。お前の勝負だろ、俺たちが手を貸したら意味ないじゃん」
「うぅ……おええ、頭痛いっす……」
「ん、ダンの言う通り。私たちが助力するのは倫理に反する」
全員に断られ、口をへの字に曲げるフランチェスカ。
「頭の固い奴らじゃのう。ワンチームじゃ、わしら仲間じゃろ?」
なんとか釣り下がろうとするが、ニナは聞く耳を持たない。
「それとこれとは別。昨日の勝負はあくまで個人戦。それにフランチェスカは大魔法使い、私たちの助けなんか無くても勝てる」
助けはいらないだろうとニナは言うが、それは信頼なのか、単に面倒なだけなのか。
受け取った側は前者と思ったようで。
「お、おお? 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。見せる? 見せちゃう? わしのスーパーすごいところ。マジビビるぜ? 昨日と今日で世界変わるぜ?」
そんなこんなでバカをやっているうちに玄関扉がノックされ、同時に呼び声がした。
「フランチェスカー! フランチェスカ・マクドウェルは在宅か?」
「ぬ、プラグか? 入れい、開いておるぞ」
現れたプラグは白衣をトレンチコートのようなベルトで押さえ、さらに背中に機関銃を下げるという突飛な姿だった。ダンが日本にいた頃に見たフィクションですら、中々お目にかからない奇抜さだ。
「失礼するのだよ。フランチェスカ、昨日の勝負は覚えているかい?」
「当たり前じゃ。今からギルドに行こうとしていたところじゃよ」
「それは都合がいい。勝負の期間内は不正を防ぐため、できるだけ一緒に依頼を受けに行こうじゃないか。まあ依頼を早く終えたなど、2人揃わない場合はその限りではないが」
フランチェスカも特に異論はないようで、勝負のやり方が決定した。
その後、一行は冒険者ギルドへと移動し、最初に受けるクエストを選ぶことにした。
「わしはこの右の依頼を受けるぜ!」
「ボクはその上の依頼を受けることにしよう」
掲示板からそれぞれに依頼紙を剥がし、クエストを受注する。
ちなみにフランチェスカはゴーレム1体の討伐、プラグはゴブリン5体の討伐を選択した。
2人いわく。
「数は少ない方が効率がええじゃろ? わしくらいの力があればゴーレム如きに遅れは取らんわい」
「ゴブリンはゴーレムより格段に弱い。難しいことを1回行うより簡単なことを繰り返した方が楽なのだよ」
以上が対戦コメントだった。ダン的にはフランチェスカの考え方に割と同意したいところがあったが、中立という建前上言葉にはしなかった。
さて、時は過ぎ勝負開始から3日後。
バァン! とダンの家の扉が開かれると、フランチェスカが駆け足で部屋に入ってきた。
「残業がヤバイのじゃ! あのロリ娘、どんな魔法を……いや、どんな科学を使ってるんじゃ。仕事が早すぎるぞ」
「おう、頑張れよ」
「もう頑張ってるのじゃ! 面倒じゃのう、辛いのう。チラリ」
床に大の字に寝転がり、両手両足をバタバタさせて駄々をこねる400歳児。
一同の反応は冷ややかなものだ。
「手伝いならやらんぞ、お前が吹っかけた勝負だろうが」
「み、三日酔いです……うぇぇ」
「……自業自得」
「みんな冷たいのじゃ! 見ておれ! 絶対にわしを助けたくなるように仕向けてやるからの!!」
そう言い残してフランチェスカは家から走って出ていってしまった。
残された3人が顔を見合わせて困惑する。一体何がしたかったのかと。
答えはその日の夕刻に判明した。
「フランチェスカ・マクドウェル先生を、励まそうの会〜!」
わー、ぱちぱち。とフランチェスカが1人で拍手をする。
「もう白菜煮えてない? 蓋取るぞ?」
「おお、野菜と鶏肉がハーモニーっす! やっぱり鍋といえば鶏肉っすね」
他の面々が鍋に夢中の間も大魔法使いのありがたい演説は続いていたが、誰一人聞いていない。
「お主ら、聞くのじゃ! その材料、わしが奢ってやったろうが!」
「何だよ、自分からそういうこと言うと好感度下がるぞ?」
「やかましい! 一々体面に拘ってる場合ではないのじゃ。このままではわしが勝負に負けてしまう、そうなればお主らも辛かろうて」
「いや、別にどうでもいいが」
「今回ばかりは師匠に同意っす。あんまり興味ないっす」
「何でじゃ! 異世界の科学とか、どう考えても頭おかしいじゃろうが! そんなのにわしが負けていいんか!?」
ダンにとってみれば、単に自分たちの世界を研究している人間がいるくらいの感覚だったが、フランチェスカには、そもそも異世界の存在に関して知識がないらしかった。
確かに、事情を知らなければプラグは狂人にしか見えなかっただろう。
「いや、実は異世界ってのがあってだな……」
鍋をつつきながら、大魔法使いにこれまでの経緯を説明した。
ダンは異世界から召喚された人間であること、異世界には魔法がなく、科学が発展していること、異世界から召喚された人間はそれなりにおり、徐々に科学知識を伝えていること。
「何と言うことじゃ。完全に世迷言じゃと思っとったのに、異世界とかマジ? この歳まで生きてて知らんかったの超ショックなんじゃけど」
口をぽかんと開け、手にしたフォークを落としそうになっていた。
「まあ、確かに可哀想な気もするな。知りたい知識があったら教えるぞ」
「お、マジかえ? そんならプラグをよう観察して、質問を考えてくるかの」
そう言ってフランチェスカは食事に戻る。鍋から鶏肉を探し出そうとするが。
「のう、お主ら。これはあんまりじゃないかの」
鍋の中には白菜とわずかなきのこが残されているだけだ。そこに鶏肉はない。
「わ、私は残してあげようって言ったんすけどね」
「嘘、マニマニは我先にもも肉をさらっていた。むしろ主犯と言っていい」
即座に責任のなすりつけあいが始まる。
「う」
フランチェスカがえずくような音を発した。
「う?」
「うわぁぁぁん! おのれプラグ・イン・ハイブリッド!! 絶対鼻を明かしちゃるからのう!!」
泣き出した大魔法使いはそのまま自室へダッシュで引きこもってしまった。
翌日、ダンジョンにて。
「キミ、なんだかやけに近くないか? 何か企んでるんじゃないだろうね」
「何のことかさっぱりわからんのう。偶然じゃ偶然、決してお主が可愛いからストーキングしているわけではないぞい」
ニヤニヤと笑みながら答える。
すると、プラグが大きくため息をついた。
「……キミはいつもそんな感じなのか、仲間達は大変だろう」
プラグなりの皮肉だったが、そう簡単に堪える400歳児ではない。
「いやあ、あやつらも同じようなもんじゃがのう。変人ばかりで困るわい、年長者がきっちり引っ張ってやらねば」
異様にキリッとした表情で言うものだから、それが面白くて、つい軽口で返してしまう。
「どの口が言うのだよ、年はとりたくないものだ」
返答が彼女の芯を食ったようで、ダンジョン内にも関わらず騒ぎ立てる。
「あー! お主今言っちゃダメなこと言ったのう、バーカバーカ! ちんちくりんのロリ娘ー!」
まるで子供のようにはしゃぐフランチェスカを見て、プラグは一言、実感のこもった声で。
「……本当に、年はとりたくないものだ」
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