第13話
「初めましてだな、エウクレ」
他の定理宇宙を観測していたエウクレに一方的な干渉をする知性体が居た。
「これは驚きですね、最小限の観測だったはずですが」
「知性体を甘く見ているな、観測に特化しているお前だが長く観られていれば嫌でも気づく」
形而上学領域から語り掛ける第三知性体はどこか楽しそうで、声からもその表情が容易に想像できる。
そんな第三を相手にエウクレはどこか恐怖に近い思いをしていた。
「何が目的で?」
「目的?そんなものはない、が強いて言うなら遊びだな」
「遊びですか‥、あなたらしい。しかしそれだけですか?」
「後は第五のお願いだな。見てきてほしいと言われたんで来ただけだ」
第三は十次元上での星の位置を演算で書き換える。観測をある位置から行えば文字が現れるように。
一文作るごとに星は位置を変え、その星の生物は迷惑を被った。
「そうですか、しかし星の位置を変えての会話は遠慮願います」
「そうか、では恒星でのモールス信号で」
星の位置は元に戻ったが、とある銀河の恒星定理が連続的に証明を繰り返した。
「そこまで回路を回す必要は無い。俺も別段この定理宇宙を証明する気は無いし」
エウクレは第三の動向を過去と未来、多時間的において行われることを見逃すまいと回路を回し観測している。並行して疑似定理証明装置も静かに稼働を開始させていた。職員に気づかれないよう、時間的に独立して。
「ではこうして会話を続ける意味は?」
「つい最近、俺が干渉して起こったことについて分かっているだろうが言っておこうと思ってな。あの異常はやろうと思ったことではない」
「分かっていますよ、知性体の干渉には苦しめられていますからね。わざとならとっくに定理宇宙全体が異常を起こしているはずです」
第三がというより、どんな知性体であれ定理宇宙の一つなど演算一つで証明できる。そうすれば人類はおろか定理宇宙に住む全存在が消えていることだろう。もしくは新たな定理の宇宙で別の存在に変わっている。
「分かっているならいい。そしてもう一つ言っておくことがある」
「何でしょう?」
エウクレは嫌な予感を観測装置でありながら感じていた。会話と並行して行っている観測がある時空点に近づくにつれてその予感は大きくなっていく。
「お前も観測するだろうが、もうこの時空に侵入させてもらった」
「どうやって…、時空に異常は無い。いや、…この時空点」
エウクレの観測が一つの時空点を見つける。異常と呼べないほどの変化、時空定理に関してみれば異常の無い時空点。しかしある定理においては異常と呼んで余りある変化があった。
「なるほど、この異常は‥、因果定理に干渉をしましたね。第三知性体モンストラス」
「ああ、この宇宙のある時空点に入るために因果定理を少しばかり証明した」
第三知性体の侵入は因果定理の証明によって因果的に有り得てしまっていた。
「これではこちらの装置でも上書き出来ませんね。既に証明されてしまってはあなたの侵入自体を止められない。…」
「お前には悪いがこっちも頼まれごとがあるのでな。それを済ませれば帰るさ」
形而上学領域から無限次元空間へ渡りながらモンストラスは語り掛ける。
彼の証明した因果定理は彼の侵入を因果的に確定させる様に記述されている。ある時空点に入れるように果を固定する定理は異常を示しながらただ宇宙に漂う。阿曇たちが研究を見た少し先の未来、その時空点に入れるように。
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