第12話

 三次元に対する四次元の様に、十一次元の宇宙は十次元の宇宙を無限小の大きさで内に秘める。十次元に時間という次元を足したのだから当然である。時間を突き詰めていった大きさのプランク時間単位ごとに物理宇宙が一つの時間に秘められ、宇宙における多時間が様々なものを一次元の内に収め、十一次元を成していた。

 過去を覗こうと思えば過去の、それも多時間的な過去の宇宙が姿を見せる。数は多いが無論見たいものさえ決まっていれば困ることは無い。

 「ようこそ、お待ちしておりました。ツアーの方々ですね?」

 研究所の十一次元内での入り口から案内人が姿を現す。白衣を着た人間のように見えるが所々に接続部

が見え隠れしている。

 「こちらへどうぞ」

 案内人が促すままにツアーの一行は施設内に入る。

 研究所内は外部と空間的に独立している様で、入り口を通る時の感覚はシャワーを浴びた後のさっぱりした感じだ。

 「一般の方も多くいるんですね」

 阿曇たち以外にもツアー客はおり、研究所は割と居心地が良さそうだ。

 「ええ、研究所の所長の意向でして、最先端の研究は知ってもらってこそ意味があるという考えで一般の方のツアーも多く設けています」

 研究所の中ではブラックホールを作る実験や次元の物質化など定理証明の技術を基盤に据えた研究が行われている。

 「こちらが別の定理宇宙への干渉法の研究です。今回のツアーで案内するエウクレの技術でしか干渉できない他定理宇宙に別の方法で干渉することを目的とした研究です」

 人間は未だ人間のみの技術では干渉できていない。エウクレは第一知性体の技術が入っているし、人間が作ってとは言い切れないだろう。この研究はある種の挑戦と言える。知性体が成し遂げられることへの。

 「この研究でエウクレ以外でも他定理宇宙に行く方法はあることが分かっています。技術的に確立はしていませんが、いずれは多くの方が定理宇宙間を行き来することでしょう」

 あくまで一つの公理より派生した定理宇宙群のみでしか出来ないと案内人は付け加えたが、それでも人類の可能性を広げる研究であることに変わりなく、阿曇の願いが届く希望でもあった。

 「なあ、木村」

 「うん?どうした?」

 木村はこの次に出る言葉を予感した。食堂で聞かれた時と同じ雰囲気を感じたから。

 「行けると思うか?」

 あの時と返す答えは変わらない。

 「行ける。お前が行こうと思う限りは」

 「会いたいな‥、あの子に」

 「会えるさ、お前なら」

 食堂での問答よりも確実に、想いは強く。記憶もなく、ただ幼馴染であったということ以外覚えていないが、彼女に会いたい気持ちは段々と大きさを増していった。

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